六百九十八話 のうのうと生きてる……ように見える?
「ッ、それだけ強いモンスターを倒してるのに、なんで上を目指さねぇんだよ!!!!」
ソウスケたちが今までどんな強敵と遭遇し、どうやって倒したのかを話していると……今回の討伐戦に参加したルーキーの中の一人、フォルクスが怒鳴る……に近い声を上げながら、テーブルを思いっきり叩いた。
「えっと……それは、説明したよな」
いきなりソウスケに対して怒りの感情を向けるフォルクス。
そんなフォルクスを危険に感じたのか、ミレアナの瞳にそっと影が差す。
それをソウスケは瞬時に察し、落ち着けと口パクで伝えた。
「フォルクス、あまり酒の席でそう怒鳴るな」
それなりに歳を取っており、深い人生を送っているオーザストがフォルクスを宥める。
しかしそれぐらいでは、フォルクスのソウスケに対する怒りの感情は収まらなかった。
「無理に決まってるじゃないですか!!! 上に上がる力があるくせに、実際に実績があるくせに下でのうのうと生きやがって……俺たちを馬鹿にしてるのか!!!!」
フォルクスの魂の叫びはフロア中に響いた。
本人も酒の席で怒鳴るような……喧嘩を売るような真似は良くないと解っている。
解っているが……上を目指すものとして、ソウスケの考えにはどうしても納得出来ず、共感も出来ない。
まだ冒険者になってから月日は経っていないのかもしれないが、実績だけは充分にある。
実績だけを考えれば、Bランク……上役たちが納得すれば、超最短距離でAランクになれたかもしれない。
それにもかかわらず、目の前の同年代の男は少し前まで自分たちより下のEランクでのうのうと過ごしていた。
実際にはダンジョンの中層から下層を探索したり、生徒たちや先生から……知り合いからの依頼を受けてバリバリ鍛冶を行っていた。
そして疲れた体に鞭を打ち、帰ってきてからは未だに注文が絶えないエアーホッケーの制作作業を行う。
どう考えてものうのうとした冒険者生活を送っていないのだが……ソウスケの楽し気な……偏屈な考えで見ると、へらへらした顔で過去に戦った敵との話をされれば……のうのうと生きてきたと思ってしまうのも仕方ない。
かもしれないが、ソウスケとしては本当に上に登るつもりはなく、現状に満足しているのでそんな怒鳴られても困る……というのが正直な感想だった。
(……フォルクスの想いが、同じルーキーたちの言葉を代表してるのかもな)
同じパーティーメンバーであるロンダや、波紋のジープたちの表情を見ると、あからさまに賛成はしていないが……表情からフォルクスの考えに同意しているのが解る。
(とはいえ、どう答えれば正解なのか……人生経験が浅いからか、パッと出てこないな)
ソウスケがフォルクスの想いに対してどう答えれば良いか悩んでいる間、フォルクスはフロア中の人から視線を向けられているのに気付き「す、すいませんと」と小声で謝りながら椅子に座った。
「…………フォルクスからすれば俺の冒険者生活、考えは納得出来ないものかもしれないけど、お前の考えを押し付けられても困る」
謝らない。
それがソウスケの取った選択だった。
謝ったところで、ソウスケは心の底からフォルクスに対して悪いと思っていない。
仮になんとなく謝ったところで、本当に悪いと思っていないことぐらい、顔を見れば分かる。
偶にカジノでポーカーをプレイしたりするソウスケだが、こういった場面でのポーカーフェイスには慣れてない。
「ッ!!!!」
的確な答えを返され、恥ずかしさで顔が真っ赤にフォルクス。
「お前は俺に色々言ったけど、俺は今の生活に満足してる。逆に、お前は満足してるのか?」
ただ、それだけでソウスケは口を止めなかった。
「お前は今の現状に満足してないから、満足してる同年代の俺に対してイライラしてるんだろ」
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