六百八十六話 少しだけ……同情

「ったく、どいつもこいつも頼りねぇな」


そんな言葉を漏らしながら現れた人物は……身長はそれなりに高いが、盗賊団の頭というイメージがあまり持てない、おっさん面の男。


だが、その男が現れると下っ端たちは歓喜し、ソウスケたちに圧倒されて消えかけていた闘争心が元に戻る。


逆に、ラップたちは一目で盗賊団の頭……バンディーが普通の男ではないと察した。


(どう見ても、普通の盗賊とはちげぇ……というか、そもそも人間なのか?)


特別観察眼に優れているという訳ではないが、それでもラップは冒険者としての経験から異変を感じ取った。


そしてラップと同じく狼人族のジャンと虎人族のジープは、バンディーから今まで嗅いだことがない匂いを嗅ぎ取った。


(こ、こりゃいったいどういう匂いだ? こいつがヤバいってのだけは解るが……人間じゃ、ねぇのか?)


モンスターが人間の姿に化けているのではないのか?

ジャンがそう考えるのは無理もないのだが……バンディーは人間、人族。

それに間違いはない。


ただ……確かに一般的な人間との違いはあった。


「お前ら、もっと暴れろ」


命令するかのようにバンディーが手をかざすと、残りの下っ端たちが急激に吼えだした。


「ぐぅおおおおあああああ!!!」


「ガァァアアアアッ!!!!!」


「はっはっは!! 最高だ! 流石頭の力だ!!!!」


下っ端たちの身体能力が急激に上昇し、ラップたちは徐々に圧され始めた。


「ッ!? ヤバい薬……って訳じゃ、なさそうだな!!」


「どう考えても、あの野郎が何かしたんだろ!!!」


更に強化された下っ端たちを冷静に潰すソウスケは、ジャンの考えに同意しながらも……強化された下っ端たちに少し同情していた。


(これは……どう考えても、無茶過ぎるというか……いつ限界が来てもおかしくない。一時的な強化というよりも、無理矢理限界を越えさせている? に近いか)


下っ端たちの体は血管が浮きまくり、目は完全に血走っている。


「ザハーク、こっちは俺に任せてお前はあの男と遊んできて良いぞ」


「ふむ……では、お言葉に甘えさせてもらおうか」


ソウスケの言葉に甘え、ザハークは襲い掛かってきた三人の無理な強化を受けた下っ端の首をボキっと折り、バンディーの前へとジャンプ。


「へぇ~~~~……強そうな鬼人…いや、オーガか?」


「オーガで合っているぞ」


「おいおい、モンスターが人の言葉喋ってるとか、いったいどういうことだ?」


「俺も良く解らん。だが、今はそんなことどうでも良いだろう。さぁ……俺と殺し合おうか」


「へっ、こりゃまた随分と死にたがりな従魔だな」


バンディーは体格に似合わない大剣を構え、ザハークも同じく道中でオークジェネラルを倒して手に入れた大剣を構えた。


(ザハークが戦いに集中できるように、こっちはササっと終わらせないとな)


バンディーから無茶な強化を受けた下っ端たちの身体能力は、ラップたちにとっては充分厄介であり、フォルクスとジープからしたら超不利な状態。


ジャンやラッソ、メイたちがカバーしながら戦っているので今のところ致命傷を負うようなことはないが、それでもいつ強烈な一撃を食らうか分からない。


(クソ、クソ、クソッ!!!!! こんな状態に、なるなんて!!!!)


フォルクスは自分が先輩たちのサポートがなければとっくに殺られていると自覚しており、自分の不甲斐なさを心の中で嘆く。


ただ、嘆いたところで敵との実力差が埋められる訳ではなく、無理に前に出ようものなら、ジャンたちのカバーを無駄にすることになる。


「ミレアナ!!」


「了解です」


名前を呼ばれただけでソウスケからのメッセージを受け取り、二人は一気に身体能力を向上。


ソウスケは自身の強化スキルだけではなく、蛇腹剣で奪ったスキルまで使用。

まさに神速と言える速さで強化された下っ端たちの体を断絶。


もしかしたらという心配があり、グラディウスの刃に風の魔力を纏って強化し、万が一を考えて盗賊たちをなるべく絶対に動けないようにズバッと真っ二つに切断。


ミレアナも飛竜の双剣にソウスケと同じく風の魔力を纏い、二度と動けないように斬り刻んでいった。

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