六百八十一話 少しでも持っていれば……

学術都市を出発してから昼過ぎになり、運良くそこまでモンスターと遭遇することなく進むことが出来た一行。


夕食のタイミングになり、ソウスケはいつも通り亜空間の中からモンスターの食材を取り出し、下処理をしてからこんがりと焼き始めた。


「ッ……な、なぁソウスケ君。それはいったい何の肉なんだ」


ラップは街を出る前に買ったサンドイッチを食べていたが、それでも美味そうな匂いを漂わせる肉の正体が気になった。


「これはバーンボアの肉ですよ。確か……三十二層で狩ったと思います」


「バーンボアの肉か……いや、そもそもあれだ。ソウスケ君、お前のアイテムボックスって」


「ラップさんが考えてる通りで合ってますよ」


ラップは先輩冒険者として、楚洲助のアイテムボックスにどういった効果があるのかは口に出さず、ソウスケも考えている通りだと肯定しただけ。


だが、その工程だけでラップたちの体に衝撃が走った。


「ッ! ……ソウスケ君、金は払うから良かったらバーンボアの肉を少し分けてくれないか」


「良いですよ。焼き上がるまで少し待ってください」


ソウスケのアイテムボックスの性能を知り、自分たちの仲間にならないか……という言葉が口から出かけた。

しかし自分たちがその言葉を口にする死角は無いと直ぐに悟り、ぐっと飲み込んだ。


ただ……普段ではそこまで高級な肉ではないが、野営地だと調味料などを惜しまずに使ったバーンボアの肉は非常に魅力的であり、金を払ってでも食べたいと思った。


ラップが懐から常備している金を取り出す、同じパーティーメンバーのジャンたちもお金を用意。


それを見たソウスケは、もっと焼いた方が良いなと思い、肉を追加。


最終的に烈火の刃のメンバーは全員銀貨数枚を払い、ソウスケから塩胡椒を使用したバーンボアの焼肉を貰い、オーザストも同じく金を払ってソウスケから頂いた。


「「「「……」」」」


オーザストは肉を少し多めに貰う代わりに、支払う銀貨の量を増やし、貰った肉をパーティーメンバーであるジープたちに分けた。


自分たちのパーティーに先輩冒険者がいるお陰で、食欲が満たされた三人。

だが……天雷のフォルクスやロンダたちは今回の討伐に、金は全く持ってきておらず、欲しくともソウスケから変えない状況だった。


(あいつら、もしかして全く金を持ってきてないのか? 普通は少しぐらい持ってる筈なんだけどな)


確かに普通に考えれば、これから盗賊の討伐に向かうのに金なんて必要ないだろと思ってしまうだろう。


ただ、現在の状況の様に……お金があれば美味い飯が食えて、食欲が満たされるという結果が生まれることがある。

常に少しは金を携帯しておくべき、というのは先輩はギルド職員から習う内容であり、フォルクスたちも先輩たちから教わっていた。


しかし、今まで実際に金を携帯しておいて助かった経験がなく、運悪くなくすぐらいなら依頼を受けている最中は持っていなくても大丈夫だろうという結論に至った。


だが……遂に、金を持っていれば街の外で食べる料理としては最高に美味いものが食える筈だったが……彼らは全く持っていなかった。


料理を作っているソウスケは先日敵意に近い感情を向けられ、彼らにそのことについて謝罪もされていないので、タダで渡すつもりはない。


ラップたちは後輩のそんな状況を考える余裕はなく、バーンボアの肉にがっついていた。


「ッ……ソウスケさん、少し外す」


「ん? もしかして敵か?」


ソウスケの言葉が耳に入った瞬間、ラップたちは即座に己の武器に手を伸ばした。


「敵だが……盗賊ではないだろう。ただ、飯の匂いに釣られた個体だ」


「あぁ、それは……うん、仕方ないな。それじゃ、頼んでも良いか」


「勿論だ」


既に自身の肉は食べ終えており、ザハークは食後の運動にしに向かった。

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