六百八十話 殆ど見て盗んだ

一人も遅刻することはなく、全員集合し……ソウスケたちは急激に力を付けた盗賊団の討伐に向かった。


「ソウスケから買った魔剣をダンジョンで試したんだけどよ、凄い使いやすかったぜ」


Cランクパーティー、烈火の刃のリーダーであるラップはご機嫌な様子で購入した武器の感想を、制作者であるソウスケに伝えた。


「それは良かったです。ただ、素材が良かったからという点が大きいと思いますよ」


なんて謙虚な発言をしながらも、実際に購入者から良い感想を貰えると嬉しいと感じる。


「ラップさんが購入した魔剣の素材は上級者向けダンジョンの三十層から四十層の間で倒したモンスターの素材を使ってますから」


「いやいや、良い素材を使ったとしても、製作者の腕が良くなかったら良い作品は造れないだろ。ほら、良い武器も使用者の腕が低かったら全性能を引き出せないのと同じだって」


「ラップの言う通りじゃな。例え火属性のCランクモンスターの素材を使っていようと、使う者の技量が低ければ鈍らが出来上がるだけじゃ」


ラップがもっともな事を言い、そこにドワーフであるオーザストが更にソウスケに対して高評価を付ける。


「あ、ありがとうございます」


「にしても、冒険者をやってて鍛冶とか錬金術が趣味ってのは珍しいな」


狼人族のジャンが言う通り、ソウスケは冒険者として非常に珍しいタイプ。


ギャンブルが趣味のジャンとしては、きっちり儲けることが出来る趣味を持ってるソウスケが少し羨ましかった。


「偶々ですよ」


「偶々それなりに才能があったとしても、あんなに良い武器を大量に造れるのは凄いって」


「どうも。でも、あそこに置いてあった武器は俺のだけじゃなくて、ザハークが造った武器もありますから」


Cランクの冒険者たちは知っていたが、Dランクのルーキーたちはその事実を知らず、全員ギョッとした表情でザハークの方に顔を向けた。


「? 何か用か」


不機嫌ではないのだが、そう思えるような圧を感じたフォルクスたちは直ぐに首を横に振り、周囲の警戒に意識を向けた。


「それはそれでスゲぇよな。あれか、ザハークはソウスケの鍛冶に興味があったから、ソウスケに教えてもらったのか?」


「……まぁ、そんなところだ」


「いやいや、俺はそんな大したことは教えられてないんですよ。基本的なことはこう……なんとなく教えられましたけど、殆ど見て盗んで自分の物にしたって感じですよ」


決して間違った説明ではなく、誇張でもない。


神からいきなりレベル五の鍛冶スキルを授かったソウスケは、鍛冶のことに関しては最初からなんとなくやり方が分かっていた。

今でこそ、誰かに教えるとなればそれなりに説明できるまでに成長した。


だが、実際に鍛冶を始めたばかりの頃は頭に植え付けられた感覚だけでやっていた。

しかしザハークはそんなソウスケの動きから着々と技術を盗み、急激に鍛冶の技術を上げたのだ。


「ほほぅ~~~~、それは確かに凄いのう。お前さん、いったいどんな武器を造ったんじゃ。良ければ一つ見せてくれんか」


先日、露店で武器を売った時はどの武器をソウスケとザハークのうち、どっちが造ったと客達に伝えていなかった。


(…………構わないか)


減るものでもないと思い、ザハークはソウスケに頼んで自身が制作した大剣の一つを取り出してもらった。


「これが、俺が造った大剣だ。素材はそちらのソウスケさんが造った魔剣と同じく、三十層から四十層に出現する火属性モンスターの物を使った」


「なるほどなるほど…………ふむ、ランクは三……いや、四か」


「えっと……オーザストさんの言う通りですね。その大剣は腕力の強化とスタミナの強化、後は魔力を使用すれば火を纏えて、大斬火という遠距離の斬撃技が使えます」


「はっはっは!! それはまた凄いのう……専用技があるとはのぅ……ふっふっふ、非常に良い腕をしてるな、お主」


「……そうか」


大した返事を返さなかったザハークだが、内心では物の目利きに優れているドワーフのオーザストに褒められてご機嫌上々だった。

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