六百六十話 鬼畜の所業
一先ずデリスタという教授のことはレグルスとレーラに任せた翌日、ソウスケは轟炎流の道場へと向かっていた。
(人体解剖が趣味、ねぇ……どう考えてもアウトだろ)
人の趣味は人それぞれ。
趣味だけでその人の事を否定するのは良くないと分かっている。
ただ、ソウスケはデリスタという教授はどう考えても頭がイカれてるとしか思えなかった。
(モンスターの死体ならまだしも、生きてる人間を誘拐してほしい……生死は問わない。生きてても独自の方法で解剖したいと思ってるってことだろ……正気の沙汰じゃないな)
デリスタは自身がおかしいと一ミリも持っていないが、ソウスケからすれば百パーセント頭がおかしいクソ教授。
(もしかして、解剖するために埋葬された人を掘り起こして、自分の欲望の為に解体してるのか?)
もしもの可能性を思い付き、ゼルートは再びゾッとした。
墓に入った死者の体を掘り起こし、趣味の為に死体を弄る。
その光景を思わず想像してしまい、吐き気を感じた。
「……あの二人に本当の地獄を味合わせてほしいと頼んで正解だったな」
ソウスケは自分やミレアナ、ザハークを裏の連中を使って攫って解剖するような者であれば、そんな非道なことを平気で行うと想像してしまったが……表沙汰になっていないだけで、デリスタというクソ教授は実際に鬼畜の所業を行っていた。
「はぁ~~~~、もうあの事を考えるのは止めよう。気が滅入る」
これからターリアに会い、頼まれていた依頼の品を渡す。
腐った表情のまま会う訳にはいかないと思い、無理にでも笑顔をつくる。
そして轟炎流の道場へと到着し、中へと入る。
「すいません、ターリアさんに頼まれていた依頼の品を届けに参りました」
「あ、あなたが……かしこまりました。こちらへどうぞ」
事前にターリアからソウスケが依頼の品を届けに来ると聞いていたので、受付の女性は迷うことなく鍛錬を行っているターリアの元へソウスケを案内した。
(……この人も轟炎流の人、だよな。もしかして、この道場に所属する人は全員轟炎流を習ってるのか?)
受付で立っていた女性もターリア程ではないが、並みの冒険者よりは上の実力を持っている。
「ターリアさんは現在あちらで生徒たちの相手をしていますので、少々お待ちくださいませ」
「分かりました」
受付の女性は一旦いなくなると、直ぐにお茶を持ってきた。
(ちょっと苦いけど、その苦さがまた美味しいって感じだな……てか、もしかしなくても轟炎流って日本に似た感じの場所から来た流派……だよな)
道場のつくりなどを見て、ソウスケは改めて居心地の良さを感じた。
「おや、ソウスケ君じゃないか。いらっしゃい」
「あ、レガースさん。どうも、お邪魔してます」
轟炎流の師範であるレガースがフラっと現れ、ソウスケの隣に腰を下ろした。
「ターリアさんにこういった武器を造ってほしいと頼まれて、その武器が出来上がったので持ってきたんです」
「ほぅ、そういえばそんなことを言っていたな。だからターリアはここ最近上機嫌だったのか」
「そうなんですか?」
「あぁ、そうだよ。ほら、今生徒たちを相手にしている表情を見てごらん。とても良い表情をしてると思わないか」
レガースにそう言われ、生徒たちを次々に相手していくターリアの表情を見るが……普段の稽古様子を観ていないソウスケにとって、どの辺りが上機嫌なのかいまいち分からなかった。
(な、何か違うのか? あんまり普段のターリアさんと変わらない気がするけど……でも、師範であるレガースさんがそう言うなら、きっと上機嫌なんだろうな)
無理矢理上機嫌なんだろうと思い込み、もう一口お茶を飲むとようやくターリアがソウスケの来訪に気が付いた。
「来ていたんですね、ソウスケさん。すいません、稽古に集中してしまっていて」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それより、途中で切り上げてきても良かったんですか?」
「はい、問題ありません。そろそろ彼らも体力が殆どなくなってきているので、そろそろ切り上げようと思っていましたので」
それなりに汗をかいているターリアだが、打ち込んでいた生徒達の方が倍以上の汗を流し、膝に手を付くほど疲労が溜まっていた。
「そ、そうみたいですね。それでは、ご注文の品を渡しますね」
ソウスケは亜空間の中から二つの剣を取り出し、ターリアの目の前に置いた。
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