六百五十九話 何のために?

「それで……どうする?」


「どうする、とは?」


「決まってるだろ。ソウスケ自身がそいつを殺すのか、それとも俺たちが殺せば良いのか」


「…………」


レグラスの問いに関して、ソウスケの個人的な感情としてはデリスタという教授を自らの手でぶん殴りたかった。


(一発は全力で殴りたい、な。でも……俺が全力で殴ったら、多分木端微塵になるだろうな)


ソウスケが本当の意味で全力で殴れば……殴り方にもよるが、木っ端微塵にしないことは可能。

ただ、そうなると殴ったあとの勢いが問題となる。


(……学校に忍んでそんな事をすれば、校舎の一部が崩壊しそうだ……なるべくそういった相手を、自分の手を使わず潰したい……だから、この二人と契約したんだったな)


操作に使用されるマジックアイテムによっては、殴って殺した人物がソウスケであると特定される可能性がある。


「ちっ! 直接殴りたかったが……やめておいた方が良いか」


「良いのですか、ソウスケさん」


「なるべく殺したことが表に出ることは避けたい。かといって、何もやり返さないってのは……」


自分だけではなく、ミレアナとザハークもターゲットだった。

これはソウスケにとって決して許せる内容ではない。


(いっそ、殺さずに苦しめるってのもありか……てか、そっちの方が良い罰か)


ソウスケとしては、自身を狙う様に依頼した人物にはなるべく苦しみを味わってほしい。


(そう考えると、やっぱり自分のストレスを発散するためとはいえ、一発殴って殺すのは良くないな)


頭の中である程度考えが纏まったので、その内容をレグラスとレーラに伝えた。


「なぁ、こいつを殺さずに永遠に苦しめ続けることは出来るか?」


「ほぅ……良い考えだな、ソウスケ。悪魔らしい考えだ」


「褒めても何も出ないぞ」


傍から見れば皮肉に聞こえる言葉かもしれないが、レグルスは本気でソウスケの考えを褒めていた。


(苦しめてから殺せと頼まれるかと思ったが、永遠に苦しめ続けてほしい、か……ふっふっふ。やはり外見通りの中身ではないな)


あっさり冷酷な判断が下せるソウスケの評価を一段階上げた。


「現在進行形で報酬を貰っている。ただ、永遠に苦しめ続けるか……そうなると、俺の仕事はあまりないか」


「ふふふ、そうかもしれないわね。その指令は、私がメインで行うでしょうね」


「レーラはそういった事が得意なのか?」


「えぇ、それなりに得意だと自負してるわ。ソウスケの望み通り、おバカさんに永遠の苦痛を与えて上げることが出来る。まぁ、よっぽど解呪に優れた人間なら解いてしまうかもしれないけど」


「可能性はゼロとは言えないか……でもさ、そういうのって解かれたら掛けた本人は解かれたって分かるもんなんじゃないのか?」


「えぇ、勿論分かるわよ」


幻痛などを与えた術者の力量にもよるが、レーラほどのレベルになれば瞬時に気が付く。


「そう簡単に解ける人が見つかるとは思えないし……まぁ、解かれたらサクッと殺してくれるか?」


「任せてちょうだい。でも、その時にはまた美味しい料理を報酬として貰えるかしら」


「あぁ、たらふく食ってくれ」


レーラとレグラスも含め、ザハーク並みに食べる二人だが、普段からがっつり稼いでるソウスケにとっては全く痛くない支払いだった。


「にしても、生死は問わないから俺たち三人の体が欲しい、ね……この教授……学者? は、何がしたいんだ?」


「異常に強い生物の体を解体して、その秘密を知りたいんじゃないの?」


「は?? 体を解体したところで、そいつの正確な強さなんて解らないだろ」


「私も同意見ね。でも、悪魔にも生物の体を細かく解体して調べてる奴はいるわよ」


「……マジでか」


「マジよ。生物を解体して調べるなんて奴は少ないけど、いるにはいるわね」


マッドサイエンティスト。

その言葉が相応しい者は人間だけではなく、悪魔の中にもいる。


そんな事実を知ったソウスケは体をブルっと震わせ、鳥肌が立った。

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