六百五十六話 何故かロマンを感じる

「よし!! ……良い感じだな」


高級料理店で昼食をたらふく食べてから数時間後、ターリアから依頼された火の魔剣と短刀の制作が終了した。


短刀を造る際には玉鋼という素材が必要だが、運良くダンジョンの宝箱から手に入れていたので制作に支障なし。

ただ、何本を造るとなれば決してその量は多くない。


(……ふふ、良く斬れそうな出来だな。やっぱりこう……刀系の武器はロマンを感じるな。いや、勿論蛇腹剣や水龍の蒼剣やグラディウスもカッコいいんだけど……やっぱ良いよな)


自分で造った武器を見て、思わず見惚れるソウスケ。


隣でまだ作業中のザハークはそんな主の様子をチラッと見たが、その気持ちは決して分からないものではなかった。

寧ろ深く共感できる感情。


(ふっ……よっぽど会心の出来と言える作品……じゃなかったな。依頼の品を造り上げることが出来たんだな)


自分が造り上げた武器を見て、十秒近くボーっとしてしまう。

それはソウスケやザハークだけではなく、何かを造る職人なら良くある光景。


「さて、肝心の出来は…………マジか。いや、素材が素材だったんだし、これは当然の結果か?」


最近、ただ神から授かった力に振り回されず作品を造れるようになってきた、と思っている。

しかしそれを踏まえても、ターリアから依頼された品の出来はソウスケの想像を超えるものだった。


(いやぁ……うん、渾身の出来と言えるよな。そりゃ魔剣の方にはヒートミノタウロスの素材と、短刀の方にはファイヤドレイクの素材を使わせてもらった。鉱石に関してもそれなりに良い物を使ったし……自分の実力を十全に発揮することが出来た。そう思おう)


一先ず、納得のいく武器を造ることが出来た。

そう思うと、どっと疲れが押し寄せた。


「…………昼、あれだけ食ったのにまた減ってきたな」


高級料理店では少し食べ過ぎなぐらい食べた。

実際に食べ過ぎて、少し腹が苦しいとも感じた。


だが、鍛冶に集中し始めればそんなこと全く気にしなくなり、没頭。

そして気が付けばまた腹は減っていた。


(にしても、昼間食べた店の料理は美味かったな…………ん? そういえば……)


鍛冶場から離れ、客間へと移って果実水を飲んでいたソウスケはふと……重要な事を思い出した。


「やっば……完全に忘れてた。いや、でもまだ決まった訳じゃ……でも、ミレアナの表情を考えると……ほぼ確定だよな」


少し前まで因縁があった相手、ギリス・アルバ―グル。

貴族出身の面倒な冒険者が自身の知人に手を出すかもしれないと思い、悪魔の中でもトップクラスの実力を持つレグルスとレーラに護衛を頼んでいた。


(もうギリスやその取り巻きが死んだなら、あいつらの任務は終了ってことだよな……生徒たちが危ない目に合った話とか聞かないし、ちゃんとやってくれたんだろうな……それなら、こっちも約束通り美味い飯を奢らないとな)


ソウスケは、誰かの悲鳴がチラッと聞こえた程度。

ミレアナほど耳が良くないので、離れた位置では声で誰かまでは判断できない。


そもそもソウスケはギリスやその取り巻きの姿も声も知らないので、断定できる要素がない。

実際にマグマの海に落ちるところも見ていないので、本当に死んだかまでは分からない……ただ、それでもミレアナの聴力の高さは信用している。


(いつまでも護衛をさせるのは悪いし、今日の夜は……出来れば個室で食いたいから明日の夜にするか)


「考え事は終ったか」


「おわっ!? い、いつからそこに?」


「少し前からだ。また悩ましい表情をしていたが、解決しそうか」


「お、おう。というか、今回のは別に悩みじゃないよ。ほら、レグルスとレーラたちに生徒たちの安全を確保してくれって頼んでただろ。んで、多分ギリスたちは死んだから、お礼に約束してた美味い飯を奢らないとなって思って」


「そういえばそんな約束をしていたな。なら、今日の夜にあの二人と一緒に食べるのか?」


「いや、今から個室が空いてるか分からないから、今日予約して明日行こうと思う」


その日の帰り、ソウスケは昼食の時に食べた高級料理店で予約してからミレアナが待つ宿に帰った。

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