六百五十五話 話が広まっている

「律儀な人たちだったな~~~」


「客は帰ったか?」


「おう、帰った。そっちも終わったか?」


「あぁ、少し前に終わった」


ザハークはソウスケがギリスたちと話している間に一段落していたが、今ソウスケに声を掛けるのは面倒事に繋がるかもしれないと思い、話が終わるまで待っていた。


「それなりに戦える客だったな」


「ザハークもやっぱりそう思うか。俺はあんまり知らなかったけど、学術都市ではそれなりに有名なクランの氷結の鋼牙でトップの人だからな。ある程度強くないと下から嘗められるだろ」


「組織の面倒な部分だな。ただ、横にいた女……秘書? もそこそこ強いと感じたが、ソウスケはどう思う」


「リーシャさんか……フルードさんとはタイプが違うって感じたけど、ザハークが思ってる通り、そこそこ戦える人だろ」


ソウスケの予想は的中しており、リーシャは狭い空間での戦いを得意とする暗殺タイプ。

ギリスの様にそれなりに実力はあっても相手の力が解らない二流ではなく、しっかりとソウスケのおかしさを感じていた。


「まぁ、もう関わることもなさそうだし……今は氷結の鋼牙よりも、昼飯だ昼飯。ギリスがミレアナに絡んで迷惑を掛けた詫びを貰ったから、高級そうなところに行こうぜ」


「ありだな。早速行こう」


二人とも腹が減っており、場違いではない服に着替えてから速足で鍛冶場から出て飲食店が並ぶ場所へと向かう。


「ここにするか」


外装からして高級店感溢れ、店の中からしっかりと食欲がそそられる匂いが漏れ出ている。

ザハークはソウスケが選んだ店で昼食を食べることに大賛成。


種族的にオーガであるザハークだが、見た目は限りなく鬼人族に近い。

そして現在は服を着ているので、鬼人族だと言われても違和感なし。


というわけでサラッとソウスケと一緒に見せの中に入店。


「いらっしゃいませ、お二人様でよろしいでしょうか」


「はい、二人です」


「お席へご案内しますね」


店員はザハークの見た目に関してどうこう思うことなく、二人をあっさりと席へ案内した。


(珍しいな……こいつを見せる必要はなかったな)


ソウスケは手の中で握りしめていた白金貨を亜空間の中へ戻した。


自身の見た目がまだ子供っぽいという事を自覚しているので、ソウスケは高級店に入店する時は面倒事が起きることなく入店できるように、白金貨一枚を手の中に持っている。


ちゃんと金を持ってますよアピールすることで、現金な店員たちは直ぐに態度を反転。


しかし、今回の店ではそんなやり取りが一切行われることなく席へ案内された。

その理由はいたって単純……あまり権力者的なオーラがない少年が鬼人族のナイスガイとエルフ族のパーフェクト美女を連れて高級料理店にやって来る。


という話がかなり知れわたるようになったから。

店としては大量に食って大金を店に落としてくれる客は大歓迎なので、何も確認する必要はない。


そして二人は鍛冶作業で減った腹を満たすために、いつも以上に料理を頼みに頼んだ。


「美味いな、この店」


「あぁ、いくらでも腹に入る」


値段が高いだけあって、味は高品質。

文句なしの料理に二人は感心し、料理人たちが悲鳴を上げるほどの量を食べ続けた。


ただ、二人が高級料理を食べ続けている間、周囲の客達は二人の食欲に驚きながらも食べ方が汚いと思うことはなかった。


「…………ちょっと、食べ過ぎたかも」


「そうか? 俺は丁度良い感じに満腹だ」


いつも以上に食べてしまったことで、ソウスケはやや苦しい状態だが、ザハークはケロッとしていた。


(今から激しい運動したらうっかり吐きそうだな……まぁ、鍛冶を始めたらそんなこと気にしなくなるか)


二人は店員や周りの客が少し引いてしまう程の代金を慌てることなく支払い、鍛冶場に戻って再び作業を開始した

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