六百四十八話 幸運なことに距離は縮まる
(多少ではあるが、ここの環境に慣れてきたようだな)
三十一階層に突入したギリスたちは徐々に降りるペースを元に戻していた。
まだ出現するモンスターに苦戦をすることはあるが、今のところ大怪我を負ってリタイアする者は現れていない。
(属性が有利だと分かっていても、ここのモンスターを相手にすると、精神が削れる……だが、奴らを仕留めるまで気持ちを切らしてはならない、絶対に!!!)
三十一階層以降に出現する火属性のモンスターはギリスの水魔法を蒸発させる火力を持っている。
いくらギリスが水属性の魔法が得意でも、攻撃が届く前に蒸発させられてしまう可能性張る。
だが、そこは上手くコンビネーションを使って攻撃を当てて倒す。
一緒に冒険している期間が無く、信頼し合っているからこそ出来るコンビネーション。
それが彼らの強い武器といえるだろう。
幸いにも、今のところスピードでグローチを上回るモンスターとは遭遇していない。
本物のタンクがいない中でゴーレム系のモンスターと戦うのは厳しいが、スピードを利用して寧ろ無傷で倒すことに成功したケースもある。
しかし、攻撃を食らわずとも食らえば大怪我を負う。もしくは一撃で殺されてしまう。
そういった考えが頭を過り、怪我を負わずとも精神的なダメージは負っていた。
(くっ!! 導きの書が本当にそろそろ限界だ。あと一日…………いや、半日持つかどうかといったところか)
導きの書はランクによって使用できる時間があるていど定まっているが、詳しい時間までは分からない。
そして書にカウントダウンが記されている訳でもないので、ギリスの様な利用方法を行う場合、目標を発見する前に書に記される地図が消えてしまう可能性が高い。
(何としてでも今日中に奴らに追いつかなければ!!!)
後一階層降りれば、ソウスケたちと同じ階層に到着。
ただ、遭遇しても仕留められるだけの体力と魔力が無ければ話にならない。
それを考えると、いきなりペースアップするのは良くない。
それが分かっているからこそ、焦りという厄介な感情を抑えながら進む。
(上手くいけば……時間ギリギリになるかもしれないけど、奴らとは遭遇できる筈だ)
導きの書に映し出される地図とソウスケたちの動きからして、下に降りるのではなく上の階層へと向かっている。
これはギリスたちにとって有難い情報だった。
だが、ソウスケたちと遭遇するまで絶対にモンスターと遭遇しないというわけではなく、魔力を消費することなく体に火を纏うことが出来るバーンボアと戦闘開始。
こちらはヒートゴーレムやマグマゴーレムと比べて一撃の威力は同等程度だが、動きの速さでは上回る。
しかし攻撃時の際に直線に動くという点がギリスたちにとっては扱いやすく、多少の怪我は負ったが討伐に成功。
直ぐに傷を癒して休憩を挟み、再び下の階層へと向かう。
そして……ようやく、ようやくギリスたちの視野にソウスケたちの姿が映った。
(ようやく……ようやくだ!!!!)
まだ始末出来てはいない。
だが、それでも思わず拳を握りしめた。
それはギリス以外のメンバーも同じだった。
しかしソウスケたちを発見したギリスたちは直ぐに襲い掛かることはなかった。
何故ならば、ソウスケたち……正確にはザハークがファイヤドレイクと戦闘を行っていたからだ。
(……改めて思うが、あのオーガは中々に反則だな)
人の言葉を喋れ、武器を並み以上に扱うことが出来、Bランクのモンスターであるファイヤドレイクと互角に戦う戦力を持っている。
そんなザハークの異質さを自身の眼でしっかり見ても、搦手を用意してきたギリスの頭に敗北の文字は浮かばない。
できればザハークがファイヤドレイクとの戦闘で息絶えてくれると有難い。
全員がそう思っている中、ファイヤドレイクが自身の中で最強の一撃である特大火球をザハークに放った。
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