六百四十二話 約束していたので、一歩下がる

ジャイアントマグマゴーレムの討伐を終えた後もソウスケたちは狩りを続けたが、遭遇したモンスターはどれもCランクかDランク。


ターリアの武器を造る為に必要だと思っているBランクモンスターとは遭遇できない。


(通常エリアで全く出現しないって訳じゃないし、そろそろ出現という遭遇しても良いと思うんだけど……もしかして、俺たち以外の冒険者が既に狩ってる?)


三十一階層から四十階層には当たり前だが、ソウスケたち以外の冒険者は存在する。

なので、彼らが先に出現したBランクモンスターを倒してしまってもおかしくない。


中層以降を探索するような冒険者は事前に情報を収集し、探索するのに有利になる装備もきっちり揃える。

Bランクモンスターをパーティーで倒せる実力もあるので、先に狩られてしまっている可能性は大いにあるので……四十層のボス部屋に入ってボスを倒さなければ、お目当ての素材を手に入れられないかもしれない。


(確か、四十層のボスモンスターはケルベロスとラミアが二体だったけ。ケルベロスの牙や爪なら良い素材になるだろうな)


BランクのケルベロスとCランクのラミアが二体。

ケルベロスは言わずと知れた三つの頭を持つ地獄の番犬。


鋭い爪や牙だけではなく、三つの口から吐き出される業火のブレスも冒険者たちに恐怖を与える武器の一つ。


そして半身が大きな蛇で上半身が人の体をしたラミアは不規則な動きで冒険者に近づき、手に持つ毒付きの短剣で斬り裂きにくる。

加えて、何かしらの属性魔法を一つ使ってくる。


中級の魔法を無詠唱で発動する個体もいるので、ケルベロスばかりに意識を向けていれば隙を突かれて大ダメージを食らってしまう。


「はぁ~~~~~……そろそろ遭遇しないかな」


「ソウスケさんもやはり強敵との戦いを楽しみたいようだな」


「……いや、今は強敵との戦いとかよりも早くBランクモンスターを狩って地上に戻って、ターリアさんの武器を造りたい」


「なるほど。だから少し焦った表情をしていたのか」


ターリアはソウスケが武器の素材に相応しいモンスターを探していた影響で頼んでいた武器の製作が遅れても、全く怒るつもりもクレームを入れる気もない。


ただ、注文した品を必要以上に待たされる。

それが大多数の人にとって嫌な状態であることをソウスケは身に染みて解っている。


ソウスケたちが地上に戻る速さを考えれば、まだ焦る時間ではない。

しかしなるべく武器を造ることに時間を掛けたい。


(こう……良い感じのモンスターとそろそろ遭遇したいんだが、これに関しては願ってもどうしようもないか)


諦めてじっくり探す。

もしくはこのまま階層を降り続け、ボスモンスターであるケルベロスとラミアをサクッと倒して戻ろう。


そう思い始めたタイミングで……岩陰から一体のモンスターが姿を現した。


「は、ははは……どうやら、願いが通じたみたいだな」


「ほぅ……これはこれは、中々上質なモンスターだ」


「ターリアさんの武器を造る素材に必要なモンスターとしては、十分に合格点をあげられそうですね、ソウスケさん」


「あぁ、まさにピッタリのモンスターが現れてくれたよ」


三人の前に姿を現したモンスターは皮膚や毛が赤い巨大な人の形をした牛。


望みに臨んでいたBランクのモンスター……ヒートミノタウロス。

通常種のミノタウロスとランクは同じだが、火属性の攻撃を行えるヒートミノタウロスの方が総合的に上の力を持っている。


通常の冒険者パーティーであれば気合を入れて戦闘に臨む場面だが、ミレアナは超涼しげな表情のまま。

ザハークはヒートミノタウロスを戦いたそうにウズウズしながらも、事前に約束していたので一歩下がった。


そしてパーティーのリーダーであるソウスケは依頼人であるターリアさんの為……狩人の笑みを浮かべながら地面を蹴った。

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