六百三十七話 速い判断
二十五層のセーフティーポイントで休息を取った後、ギリスたちは再び過去最高の状態で下へ下へと降りていく。
しかしダンジョンも中々簡単に下へ降りることを許さず、斥候たちが今までにない集中力を発揮していてもモンスターと遭遇する回数が明らかに増えた。
「すいません、ギリスさん」
「……気にするな」
斥候たちが気を抜いているとは思わず、叱責したりはしない。
だが、二十五層のセーフティーポイント以降から明らかにモンスターと遭遇する回数が増えた。
それは確かに感じ取ったギリスは嫌な予感がし、なるべく三十一階層に早く降りたいと思いながら行動。
「ギリスさん、前方からスナイプビーの群れが来ます」
「ちっ!! 魔法使い組は攻撃の準備を行え! 完成するまで一体も後ろに行かせるな!!!」
「「「「「了解!!!!」」」」」
高威力の魔法の詠唱を完成させるための時間を稼ぐことに専念するギリスたち。
その判断の速さは見事と言えるものであり、スナイプビーの数は二十弱……この数を前衛組だけで仕留めるのは難しい。
スナイプビーの針には麻痺毒があり、射的能力が高い。
無理に倒そうとして前に出過ぎれば、麻痺毒を食らってお荷物になる。
麻痺毒と射的能力の危険度が分かっているからこそ、ギリスたち前衛組は敵の攻撃を弾く。
もしくは牽制することに集中し、決して前に出過ぎない。
ダンジョンでの行動や集団戦などでの行動に関しては有名クランに種族するだけのことはある、と思われてもおかしくない。
「完成しました!!!」
そして遂に後方の魔法使い組の詠唱が完了。
今から発射すると合図を告げ、前衛組はスナイプビーへの道を即座に開け、四つの魔法が放たれた。
「「「「「「ッ!!!! …………」」」」」」
放たれた攻撃魔法による、大半のスナイプビー討伐に成功。
「今だ!! 混乱している間に潰せ!!!」
仲間の殆どが死んだことによって思考が鈍ったスナイプビーの隙を逃さず、今度は前衛組が積極的に前に出て己の得物をぶち込んでいく。
相手を異常状態にする攻撃方法を持つモンスターは非常に厄介な敵ではあるが、ギリスたちは傍から見れば危なげなくスナイプビーの群れを討伐することに成功した。
「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅーーーー」
「ギリスさん、スナイプビーの死体はどうしますか」
スナイプビーの死体は尾の針だけではなく、体内の内臓などは解毒剤の素材などとしても冒険者ギルドの買取所で売れる。
だが、今回ギリスたちはただ大勢でダンジョン探索に来ているのではない。
早く三十一階層に降りて潰すと決めた目標の人物たちに追いつくという目標がある。
故にあまりモンスターの素材などを持つ余裕はない。
「……今までと同じく、直ぐ抜き取れる魔石だけ剥ぎ取るんだ」
「了解です」
今回のダンジョン探索で道中、他者の冒険者の助けを借りるかもしれない。
基本的にはそうならないように探索するつもりのギリスたちだが、ある程度ダンジョン探索歴があるギリスたちは、ダンジョンでは何が起こるか分からない。
この真実を良く理解している。
なので、もし他の冒険者に助けてもらった際にその場で礼を渡せるように、魔石だけは倒したモンスターから集めていた。
「確認するが、スナイプビーの麻痺毒を受けた者はいないな」
ギリスの問いに全員が問題無いと頷き、直ぐに最短距離で下の階層に続く階段へと向かうが、先程の戦闘でギリスたちは身体ダメージこそ受けていない。
だが、麻痺毒を食らってはならないという思いが強く、やや神経質な状態で戦っていたためやや神経が疲弊していた。
それはメンバーの中で一番の実力を持つギリスも同じ状態。
進行速度は遅くなってしまうが、死んでしまっては元も子もない。
なるべく早く襲撃対象であるソウスケたちに追いつかなければならず、導きの書もいつソウスケたちの居場所を示す文字や地図が消えるか分からない。
(くっ!! 急ぎたいところだが……襲撃の戦力を減らすわけにはいかないな)
我慢して無理ないペースで進むが、まだまだモンスターたちの襲撃は終らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます