六百三十九話 本当に変わらない?
グローチは少々珍しいモンスターではあるが、上級者向けダンジョンを潜っている冒険者たちであれば、一度は遭遇したことがある生理的に受け付けない最悪のモンスター。
そんなモンスターの大群と遭遇……実際に遭遇したわけでないにもかかわらず、思わず想像してしまった冒険者たちの体には一斉に鳥肌が立った。
「よ、よく生き残ったな」
「二人とも優秀だからな。全員で攻撃魔法をガンガン撃ちまくって全滅させたよ」
全員でという言葉に驚く者もいたが、それよりも冒険者たちは男も含めてグローチに対して攻撃魔法だけで倒せたことに驚きを感じていた。
グローチの初速はとても速く、基本的には直線的に動くのだが、初速が速いので方向転換してからでも遠距離攻撃を躱す余裕がある。
そんなグローチを攻撃魔法のみで倒した。
そしてソウスケの口ぶりからして、その中にはソウスケも含まれている。
(恰好からして斥候系の前衛かと思っていたが、魔法までいけるのか? ルーキーにしては色々とおかしいと感じていたが、グローチを攻撃魔法で倒せるとはな)
ソウスケの言葉をそのまま信じる。
信じるが……やはり驚かされてしまう。
「災難だったな」
「あぁ、本当に災難だったよ。ソルジャーアントの群れに関してはどうでも良かったというか、良い素材が手に入ってやったって感じだったけど、グローチに関しては本気で鳥肌が立った」
「は、はは……そりゃそうだよな」
普通ではない。
ソウスケが自分たちとは違うタイプの人間だと思っていたが、同じところはあるのだと分かり、男は何故かホッとした。
「普通は解体するんだけど……魔石だけ引き抜いて後は全部ギルドの解体士に任せることにした」
「はっはっは!! そりゃ仕方ねぇよ。モンスターの死体を解体するのがあいつらの仕事だからな」
豪快に笑い飛ばす男。
そして他の冒険者たちもこれから大量のグローチを解体しなければならない解体士たちが可哀想と思いながら、少々笑いながら「ドンマイ」と心の中で呟いた。
「でも……魔石だけは引き抜いたんだな」
「あぁ、こんな感じでな」
「おぉ~~~……見事だな」
思わず、心の底から感心している。
そんな感情が籠った言葉が零れた。
ソウスケが行ったのはただ魔力を腕に纏っただけ。
それは冒険者であれば……新人から卒業したDランク以上の冒険者であれば殆どの者が習得している技術だ。
だが……ソウスケのそれは一切の荒れがなかった。
魔法職ではない男でもその滑らかさに感心し、数秒ほど眺めてしまった。
そして少し離れた距離から見ていた魔法職の冒険者は口に含んでいた水を吹き出してしまった。
(……あの坊や、どれだけ魔力操作の練度が高いの!? さっきの話……本当なのね)
追尾というスキルがある。
そのスキルを習得していると、使用者が放った攻撃は対象を自動で追尾する。
そういったスキル習得しているのであれば、グローチに攻撃を当てるのも容易い。
だが、そうでなければあの黒光り野郎に遠距離から攻撃を当てるのは難しい。
「グローチの群れを潰してからは特になんもなかったけど、災難だったよ」
「良く生き残ったもんだな……ここには、何をしに潜ってるんだ?」
単純に男は興味があった。
目の前の子供がいったい何を理由に上級者向けダンジョンに潜っているのか。
パーティー構成はソウスケとミレアナ、そして喋るオーガこと従魔のザハーク。
一般的にはミレアナがリーダーに思われることが多いが、話せばソウスケがパーティーの中心人物であることが分かる。
「三十層から四十階層に現れるモンスターに用があるんだ。ちょっと欲しい素材があってな」
「欲しい素材か……なるほどな。納得の理由だ」
ダンジョンを攻略したという証拠、名声が欲しいといった理由でダンジョンを攻略する者もいるが、素材が欲しいといった理由で探索する者も勿論いる。
やはり目の前の少年は歳不相応の力を持っているが、中身は考えていることはそこまで自分たちと変わらない。
それが分かった冒険者たちはもう一度何故かホッとした。
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