六百三十八話 疲れが顔に出てた

ギリスが仲間と共にソウスケたちを襲撃すると決めた頃、三人はグローチの襲撃から回復し、順調に階層を降りて行き、三十層のボス部屋に到着した。


ソルジャーアントと上位種の大群と戦い、更にはグローチの大群の殲滅戦。

これらを乗り越えた後、ソウスケたちは特に驚くような相手と遭遇することはなかった。


だが、いきなりグローチの大群が襲ってきたことを思い出す、何度も身震いしてしまう。


(思い出しても仕方ない。でも、あそこでグローチと戦ってから全く遭遇してないけど……もしかして、ある意味この階層ではレアなモンスターなのか?)


大群を殲滅した後、本当にソウスケたちはグローチと全く遭遇していない。

三人が速足で移動していたからというのもあるが、そもそもグローチの発見数はあまり多くない。


「よう兄ちゃん、随分疲れた顔してんな」


ボス戦の順番待ちのため、最後尾のパーティーの後ろに並ぶと、一人の男性冒険者がソウスケに話しかけてきた。


「え? あぁ……まぁ、そうだな。ちょっと疲れたよ……面倒なイレギュラーと遭遇してな」


「ほぅ、面倒なイレギュラーか」


男はソウスケが噂の少々おかしな冒険者と知っていながら声を掛けたので、ソウスケが威勢を張るために嘘をついてるとは思わなかった。


「どんなイレギュラーだったのか教えてくれないか」


「えっと……まず、ソルジャーアントの群れに襲われた冒険者がいたんだよ」


「ソルジャーアントの群れって、マジかよ」


「マジ、マジ。ただ、ソルジャーアントがバカなのか遊んでたのかは知らないけど、俺たちが駆け付けた時は全員生きてたんだ」


「そりゃ相当運が良かったな」


数の有利を活かし、敵を囲んで制圧する。

それは敵を倒すうえで当然の行動。


冒険者たちも基本的には数の有利を活かして戦い、時には格上の相手を倒してしまう。


そんな常識をモンスターが持っていない訳ではないが、それでも全てのモンスターが数の有利を活かすという知識を持っているとは限らない。


「近くに宝箱があったから、多分宝箱に近寄った際に罠が発動してソルジャーアントが現れたんだと思う」


「……その可能性が高そうだな。いくらソルジャーアントが息をひそめてたとしても、大群に斥候が気付かないってのはあり得ない」


仮に宝箱の近くでソルジャーアントが獲物が近づくのを待っていれば、罠に気付かなかった斥候でもさすがに気が付く。


「まぁ、ソルジャーアントは殆どうちのザハーク……オーガが倒してくれたから特に問題無く倒せたよ」


「そ、そうか……そりゃすげぇな」


ザハークの話も男の耳に入っていた。

見た目は鬼人族に近いが、それでも中身は立派なオーガ。


そしてモンスターの中では珍しく、人の言葉を話せる。

冒険者の中にはザハークがもしかしたらオーガの希少種なのではないかと噂している者もいる。


その噂は見事的中しており、希少種ゆえに戦闘だけではなく解体作業や鍛冶まで行えるハイスペックなオーガ。


(ソルジャーアントの群れに遭遇ってのは確かにイレギュラーだな。群れってことは、中にはメタルソルジャーアントとか上位種もいるだろうし……でも、そんな奴らを殆どあのオーガだけで倒したんだろ……羨ましい限りだぜ)


男は大剣を使って戦うスタイルだが、それなりに体術もいける口。

だが、目先の大人しく座っているオーガにはとてもタイマンで勝てる気がしなかった。


しかし一つ気になった。

ザハークだけで殆ど倒すことが出来たなら、何故三人とも疲れた顔をしているのか。


確かに大量のソルジャーアントを解体すれば疲れはするが、三人の顔に出ている疲れはそういった疲労ではないと感じた。


「そこまでは良かったんだけどな……その後に、大量のグローチが現れたんだよ」


「「「「「ッ!!!!!?????」」」」」


ソウスケの言葉が聞こえた男以外の冒険者たちは一斉に驚き、「マジか!!??」といった顔でソウスケの方を見た。

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