六百二十三話 得体が知れない
「焦るに決まっているだろ。彼らにはなるべく早い内に謝罪しておきたい。君達と敵対する気は全くないという意思を伝えないと……」
「た、確かに他の冒険者と険悪になるのは良くないと思いますけど、それでもクランに所属していない冒険者ですよね。珍しいパーティー構成だとは思いますが」
三人の怖さをまるで解っていない幹部候補を見て、フルードは一つため息を吐いた。
「君にはこの先クランの幹部になってもらうことを期待している……だからこそ、もっと相手を視る眼を養うんだ。それか、もっと情報収集に力を入れるんだ」
「す、すいません」
自分を認めてくれているからこその叱責。
それが分かっている男は素直に頭を下げた。
「そ、そうですよねエルフの女性は一人で中級者向けのダンジョンを攻略しますし、従魔であるオーガは人の言葉を喋りますし」
「……噂だが、そのオーガはこの街の付近ではないところで、Aランクのモンスターを倒したそうだ」
「ッ!!!??? そ、そんな情報……全く耳に入ってませんが」
男はそれなりに冒険者たちが起こした問題や功績に関しては注目しているが、それでもソウスケたちの従魔であるザハークが単独でAランクのモンスターを倒したという話は聞いたことがない。
「これは本当に噂程度の内容だ。この話が事実だという確証は何処にもない……だが、俺の見立てではソロでAランクのモンスターを倒したとしてもおかしくはない」
「ッ……フルードさんがそう言うのであれば、可能性はあるのでしょうね」
従魔一体がAランクのモンスターを倒してしまう。
男もザハークが人の言葉を喋っている時点で、ただのオーガではないことは解っている。
だが、ソロでAランクのモンスターを倒すという……自分たちのリーダーでもあるフルードでさえ成し遂げられない偉業を達成する光景が想像できない。
「お前の言う通り、彼らはクランに所属していない。だが……それでも例外的な存在だ。ミレアナに関しては……いや、何度も達成している功績を考えればミレアナさんか。一人で二十一階層から三十階層まで降り、ボスも一人で倒しているんだ……それがどれだけ困難なことなのか解るだろ」
「は、はい……それはもう、十分に」
改めて口に出されると、信じられないような内容。
しかし事実として、ミレアナはそれらを平気な顔で行っているのだ。
目撃者も多いため、その内容に関して疑う者は少ない。
「俺は攻撃高なら、三十層のボス部屋のモンスターどもを蹴散らすことは出来る。だが、決して一人では行えない」
「……やはり、にわかには信じ難い内容ですね」
「できることなら、その戦闘光景を見せてもらいところだが……普通に考えて無理だろうな」
仮に丁寧に頼まれたとしても、ミレアナは他者にボス戦の光景をみせるつもりはない。
「そしてAランクのモンスターをソロで倒したという噂を持つオーガも脅威なことに変わりないが……一番得体が知れないのは、パーティーのリーダーであるソウスケ君だ」
「そ、そうでしょうか?」
ミレアナとザハークの功績や噂に比べれば、これといった話がない。
幹部候補の男がまだまだ視る眼が一流ではないという要因もあるが、どこが得体が知れず……自分たちのリーダーが恐れる存在なのか、理解出来ていなかった。
「……俺は一回窓越しだが、ソウスケ君を視たことがある」
「も、もしかして狂気的な笑みを浮かべていたんですか?」
「そんなことはなかった。いたって少年らしい表情だった」
あまり老けておらず、若干幼さが残っているソウスケはこの世界的に酒が呑める年齢だが、多くの者たちからすればまだ少年に思われてしまう。
「だがな、普通ではない。それは確実だが……しかしな、恐ろしいのはただ普通ではないところではなく、全く底が測れないところだ」
「と、ということはその少年が……え、Aランクほどの実力を持つかもしれない、ということなのですか」
幹部候補の男は自分が何を言っているのか、把握出来ていなかった。
だが、フルードの言葉を聞くにそう言っているとしか思えない。
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