六百二十四話 トップの責任

「……それは俺も分からない。だが、可能性は決してゼロではない」


「っ……まだ、二十も越えてない子供が」


「世の中には、例外的な存在がいる。それはお前も知っているだろ」


フルード・ガルザックも見る人が見れば例外的な存在に思える。

だが、世の中にはそんなフルード・ガルザックが自分とはかけ離れた存在だと思ってしまう様な化け物が存在する。


「それはそうですが……正直、信じられません」


「俺も何度そう思ったことか……しかし冒険者として、戦う者として目を逸らしてはいけない部分だ」


ソウスケがBランクやAランクに匹敵する存在かもしれない。

その様に勘付いたフルードはやはり視る眼がある。


蛇腹剣という神がソウスケに与えた武器は中々にえげつない効果を持っている。

それだけでも反則的な力だが、神はソウスケに対して強制的に才能を与えた。


ソウスケがそれなりに戦闘センスを持っているという利点もあるが、レベル一でも戦える力があったので中級者レベルが戦うような敵を初っ端から倒しまくった。


そして現在はソウスケという存在自体が反則クラスまで成長していた。


早くソウスケに会って、ギリス・アルバ―グルの件を謝りたい。

そう考えたフルードは賢明といえるだろう。


「仮にそれが本当だとすれば……確かに、ぶつかることは避けたいですね」


「その通りだ……はぁーーーー、全く。今回ばかりはあいつの傲慢さに嫌気がさす」


同じ貴族出身なので、ある程度態度が傲慢なのは仕方ないと思っていた。

今でこそ己は多少は丸くなったと思っているが、尖っていた時期があるのを忘れていない。


(……正直なところ、あいつの首で済むのであればそれで構わないが)


冷酷な考え……ではない。

組織として活動する上で、今回ギリス・アルバ―グルが起こした行動は組織全体に影響を及ぼしかねない。


クランに所属していない者をスカウトすること自体はいたって問題ではないのだ。

そのやり方に大きな問題があった。


ギリス・アルバ―グルは苗字がある通り、貴族の出。

社会的には地位がある人間に思われるかもしれないが、同じ貴族出資のフルードには解かる。


基本的に冒険者になるような子供に対して、家の実家はそこまで関心を持っていない。

つまり、家を出てからギリス・アルバ―グルがどこでどう死のうが、アルバ―グル家が出しゃばることはないのだ。


ギリス・アルバ―グルが普通に接し、ミレアナに暴力を振るわれたのであればフルードにも考えはある。

だが、今回の件に関してはフルード側……主にギリス・アルバ―グルが百パーセント悪い。


「ふ、フルードさん。冷気が漏れてます」


「……すまない、少々感情が昂っていたようだ」


今ここで怒ったところで、何かが変わる訳ではない。

ギリスの首一つでことが済むのであれば構わないと思っている。


しかしクランのマスターとして、まだソウスケとの関係に完全に亀裂を入れてはいないのでギリスを勝手に処分する訳にはいかない。


(ひとまず、ソウスケ君たちが地上に戻ってくれば直ぐに謝罪を行う。そして……それが終われば、あいつはクランから消えてもらおう)


フルードはまだクランマスターとして、今回起こってしまった責任を取っていない。

故に現時点ではギリスを氷結の鋼牙から脱退させることはない。


だが、それでも今回の一件……ソウスケはもし自分たちを襲って来れば殺す。

生徒たちを襲うとするのであれば、地獄を体験させてから殺す


ただし……殺すのは基本的にギリスのみ。

襲撃にギリス以外の人間が関わっていればそれらも殺すが、氷結の鋼牙じたいをどうこうしようとは考えていない。


氷結の鋼牙のトップであるフルードが謝罪すれば、素直に受け入れる。

しかしソウスケがそういった対応を取るとは知らない。


だからこそ……今はギリスを脱退させない。

それがフルードの責任だった。

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