五百九十六話 自分たちの道は自分たちが決めるもの
「三人はこれからどうしたいんですか?」
酒と食事も進む中、ミレアナの表情は素のまま。
酒を呑んでも若干頬が赤くなるだけで泣いたり怒ったり、言葉が荒くなることはない。
「えっと…………み、ミレアナさんはどうするのが一番良いと、思いますか?」
パッと思い付かなかったフィーネは思わずミレアナに、今後自分たちはどうすれば良いのか尋ねてしまった。
しかしこの問いに関して、ミレアナが返す答えは決まっていた。
「それは私が決めることではないですよ」
三人はミレアナの部下や奴隷ではない。
他人の人生を自分の言葉で決める……そんな真似はしたくない。
「フィーネたちの道は、フィーネたちが決めるべきです。あまり無謀な道に進もうとしているなら、さすがに止めますが」
「……そ、そうですよね。すいません、これからどうするか、あまり詳しいことは考えてなくて」
高ランクの冒険者になる。
といった漠然とした目標は決まっているが、いわゆる人生設計図のようなものは決めていない。
冒険者なんて行き当たりばったりの職業なので、中々思い通りに進むことはない。
ただ、中には大きな目標意外に、そこまで辿り着くための細かい目標を決めている者もいる。
「そうですか……こうしなさいという訳ではありませんが、この学術都市には三つのダンジョンがあります。冒険者として成長するという点を考えれば、しばらくの間この街を拠点にして活動するのはありだと思いますよ」
国外を見ても非常に珍しい街。
街中には道場もあり、自分に足りない部分を補うのにうってつけの場所とも言える。
他の街からも多くの人が来るので、逆に他の街に一旦移る者も多い。
なので護衛依頼も多く、多種多様な依頼を経験できる。
ダンジョンの攻略難易度も良い感じに別れているので、ミレアナの言う通り冒険者として……戦う者として成長するに適している街。
「俺は……いつか上級者向けのダンジョンを攻略したいって目標はあります」
「今は難しいというか無理ですが、良い目標ですね」
「それなら、まずは初心者向けと中級者向けのダンジョンをクリアしないといけないわよね。初心者向けは努力と実戦を積めば数年ぐらいでなんとかなるかしら?」
ミレアナにこれで良いのかと聞くのではなく、なるべく自分たちだけで話し合う様に意識し始めるフィーネ。
「……あの、ダンジョンを攻略するって目標は勿論良いんだけど、やっぱりもう一人ぐらいは仲間を増やさないとだめんじゃないかな」
ここでクレアラがもっとも重要な意見を出した。
現在バータたちは三人で行動している。
三人組のパーティーという構成も珍しくはないが、三人だけではソウスケたちの様によっぽどずば抜けた実力を持ち、多種多様な能力を兼ね備えているメンバーでなければ中級者向けや、上級者向けダンジョンを攻略するのはかなり厳しい。
「クレアラの言う通りね……でも、今すぐにってのは難しそうじゃない?」
「だな。でも一応頭の片隅に置いとかないといけねぇな」
「一つ助言ですが、仲間にするなら同じ目的を持っている者を選んだ方が良いですよ。全員が全員、高ランクの冒険者を目指したり、難易度が高いダンジョンを攻略しようとは思っていません」
冒険者という職業を選んだ者の中には、仕方なく冒険者になった者もいる。
逆に、バータたちが途中で目標を変更する可能性だってゼロではない。
(そうなったときは……まぁ、上手く話し合って今後の道を決めるしかありませんよね)
冒険者として人生を送る中で、何がなんでも守りたい存在というのが生まれるかもしれない。
そうなった時、このまま高みを目指し続けるのか……それとも安定を得るのか。
まだ冒険歴が短いミレアナはどちらが正しいとは言えない。
ただ、人によって考えが変わる選択なのは解かる。
「なるほど。誘う時にその辺りも聞いておかないと、後々揉めるかもしれませんね」
冒険者になった者たちがその道を選んだ理由は様々だが、大抵のルーキーたちは高ランクの冒険者に大なり小なり憧れを持っているので、現時点では気が合う者はそれなりに多い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます