五百九十五話 偉くはなっていない

「……ミレアナさんは、あんまり有名クランや大きな功績に興味がないんすね」


「私は今の生活で満足していますからね。これ以上良い生活を望めば、罰が当たりそうです」


できれば、家族ともう一度会って話したい。

事情があって一度奴隷に落ちたが、決して家族と不仲だったわけではない。


寧ろ良好な関係を築いていた。


(冒険者として活動していれば、いずれ里に寄ることがあるかもしれませんね)


ハイ・エルフの中には人族を見下す傲慢な者がいる。

だが、その辺りは人間と同じくソウスケの実力を察する者もいる。


例え何名かのハイ・エルフがソウスケに喧嘩を売ったとしても、よっぽどの実力者や達人でなければ本気のソウスケに勝つことは不可能。


「冒険者として活動していれば、基本的に毎日が刺激的です。そんな中で美味しい料理が食べられ、趣味に集中できる時間がある。私としてはこれ以上望む物はないと思っています」


「ま、まぁ……そうっすね。そんな生活がずっと続くなら、それ以上を望むといつか身を滅ぼしそうっす」


「例え権力という力を得たとしても、この世で誰も逆らえない存在にならない限りは、権力関係で疲れない日などこないのですから、あまり過度に求めても意味はないと私は思っています」


ソウスケは面倒な貴族と喧嘩することになった場合、楽に終わらせられるように後ろ盾をそれとなく集めているが、ソウスケ自身は権力が欲しいと思っていない。


(そういえば、ソウスケさんには契約している悪魔が二体いましたよね……戦う光景は全く観たことがありませんが、超強い存在であることは確かでしょうから……これから先、わざわざ有事の際に役立つ後ろ盾を集める必要はないかもしれませんね)


最初に契約を結んで以来、全く仕事を頼んでいないレグルスとレーラ。

ミレアナが考えている通り、二人は同じ悪魔であっても並の存在であれば一瞬で塵にする力を持っている。


「なるほど……貴族になったら楽な生活を送れるんだろうな~~って思ってた時期はありましたけど、よくよく考えてみると広い土地を治めるのって大変そうですよね」


「体験したことはありませんが、大変だと思いますよ。一般市民と比べて優雅な暮らしを送れるかもしれませんが、気苦労が消えるわけではない」


権力を使ってグータラした生活を送れば良い?

それはよっぽど頭が回り、優秀な手足が傍にいるからこそ送れる内容。


仮にそこまで優秀であったとしても、他の権力者と合わなければならない。

そうなれば、ある程度の腹芸ができなければその優雅な生活を守れない……生まれが良くても良い暮らしを送るには、それ相応の努力をしなければならない。


(冒険者として生きていくうえで、多少なりとも権力は必要でしょうが……ソウスケさんならばいずれ高ランクの高みへ到達する。そうなれば、ソウスケさんの考えや行動を害そうとする者は減るでしょう)


ランクを上げずとも、三人の力があれば物理的に問題が起きてもそれを潰すことができる。


故に、自分たちのクランに入れば権力が手に入ると言われたとしても、三人そろって加入しようとは思わない。


「三人とも、ランクがそれなりに上がっても自分が偉くなったと勘違いしない方が身の為ですよ」


「手痛いしっぺ返しを食らうかもしれないからっすよね」


「それもありますけど、冒険者のランクアップは貴族の爵位が上がるのと違い、冒険者内での立場は上がっても、世間一般的に偉くなったわけではありませんから」


偶に……ではなく、冒険者の中には少しランクが上がった程度で自分は偉くなったと勘違いする愚か者が現れる。

実際は素人がそれなりに成長しただけで、普段の態度次第ではチンピラと変わらない。


普通に考えれば、少し強いチンピラが偉い訳がないのだが……世の中にはそれが分からない馬鹿が一定数いるのが、悲しい現実と言えるだろう。

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