五百九十三話 笑いものになるだけ
「フィーネ、あなたたちはこのまま順調に冒険者として活動を続ければ、ある程度の力を得られでしょう」
「あ、ありがとうございます」
自分たちよりも遥か高みに立っているミレアナが、このまま努力を続ければ成長できると言ってくれた。
それだけで嬉しくなり、心の中でガッツポーズした。
「ですが、強くなればなるほど初心を忘れるものです。戦うことに対して余裕が生まれるのは良いことですが、相手を下に見るのは決して良いことではありません」
「か、返り討ちに合うかもしれないから、ですよね」
「その通りです。今までソウスケさんは自身の力でバカ者たちを追い返すときは威圧感や殺気を漏らすだけで済ませてきました」
「威圧感や、殺気だけで……」
「フィーネたちにはまだ会得出来ない技術……いや、能力と言った方が正しいでしょうか。戦いの中で生き続ければ、いずれフィーネたちも同じようなことができる筈です」
殺気や敵意、ミレアナの様に冷気で威圧することは素人が意識して行うことは難しい。
強者として生まれた者が無意識に放つことはできるが、そうでない者はモンスター……あるいは人との実戦を経験して本物の敵意や殺意を学ぶ。
そしてそれを何度も経験することによって、次第にコントロールできるようになる。
「威圧感や殺気だけで追い返す優しいソウスケさんですが、その気になれば一人で絡んできた者を始末できます」
「そ、そう……ですね」
ミレアナの話を聞いている限り、百凡の冒険者がソウスケに勝てるイメージが浮かばない。
(こ、コボルトキングを一人で倒す様な人に敵う冒険者は他にいるのでしょうか?)
ソウスケと同じぐらいの身体能力を持つ者は決してゼロではない。
だが、ソウスケの恐ろしいところはレベルアップによって上がった身体能力ではなく、多彩な攻撃方法。
そしてエース武器である蛇腹剣。
蛇腹剣は倒したモンスターの死体を喰わせることができる。
そうして得たスキルを発動することができ、本来モンスターしか習得しないスキルなども扱える。
蛇腹剣が喰らったスキルと、ソウスケが習得したスキルは同時に発動することができ、効果が重複して発動される。
あまり長い時間使い続ければ反動がソウスケの体を襲うが、スキルの同時使用を行えば反動が襲ってくる前に止めを刺すことは十分に可能。
「ただ、世の中には見た目にコンプレックスを抱いている人がいます。そこを刺激するような真似をすれば、容赦なく殴り掛かられても仕方ありません」
ギルドは基本的に冒険者同士の争いに関わることはない。
やり過ぎると職員に止められる場合はあるが、先輩冒険者がルーキーに絡んでボコボコにされたしても、止めに入る者は殆どいない。
何故なら自業自得なのだから。
「性格が悪い者であれば、誰にも見つからない場所で死なない程度に追い詰められることもあるでしょう」
「そ、そうなんですね……」
誰にも見つからない場所で死なない程度に追い詰められる。
それをリアルにイメージしたクレアラは鳥肌が立った。
「誰に対してもへりくだった態度を取る必要はありませんが、見下すような態度は取らない方が身の為です」
「こ、心に刻んでおきます」
決して他人事ではないと思ったクレアラは背筋をピンと伸ばして返事した。
(それにしても、全くモンスターが襲って来る気配がありませんね。夜行性のモンスターもいると思うのですが……)
夜の間にモンスターが冒険者を襲わないということはない話ではない。
だが、今回の野営に関してはミレアナが無意識にバータたちを守りたいという気持ちが殺気を零し、モンスターたちを追い払っていた。
ダンジョン内のモンスターたちは基本的に好戦的な性格をしているが、四六時中殺気を放っている敵に襲い掛かる度胸は上層のモンスターにはなかった。
特にハプニングが起こることはなく朝を迎え、二人はぐっすり眠っているバータとフィーネを起こし、朝食の準備を始めた。
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