五百八十六話 それらしいのに入れてみた
翌日の夕方過ぎ、約束通りジュリアスはもう一度鍛冶師ギルドに訪れた。
「お待たせ、こいつが注文の品だ」
職員に呼ばれたソウスケはダンジョンの宝箱の中に入っていた木箱に完成した魔剣を入れ、それらしくして持ってきた。
「ッ!? こ、この箱はなんですか??」
「これはダンジョンの宝箱に入っていた木箱だ。元々は同じくロングソードが入ってたんだよ。今回お前が依頼した内容は同じくロングソードだったから、それらしく持ってきたんだよ」
「そ、そうなんですね。びっくりした~~~~」
自分が用意した素材で物凄いロングソードが出来上がってしまったのか。
もしくはソウスケが他の素材を組み込んだことで、慎重に扱わなければならないほど上質な魔剣を造ってしまったのかと思い、手持ちの金で足りるのか心配になった。
「ほら、これがお前のために造ったロングソードだ」
ソウスケが蓋を開けると、中にはジュリアスのために造られたロングソードが入っていた。
「これが俺のロングソード……」
自分のために造られたロングソードを手に持ち、感動のあまり震えて落としそうになった。
「っとと」
「おいおい、大丈夫か? そんなに重くないと思うが」
「い、いえ。重くはないです。ただ、ソウスケ先生にロングソードを造ってもらったことが嬉しくて」
「そ、そうなのか? まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいが……とりあえず抜いてみてくれよ」
「は、はい!!!!」
ジュリアスは眼をキラキラと輝かせながら剣を抜く。
風の魔剣にはあまり装飾がないが、不思議と見た目がつまらないと感じさせなかった。
「武器としてのランクは三。魔力を流せば自然と刃の部分に風の魔力が纏う。刃から斬撃を放つのも、刃に纏う魔力の形を変えるのもやりやすくなっている。あと、専用の技としてウィンドクロウを付与できた」
魔剣や魔槍の中には例え本人がその属性魔法を覚えていなくても、魔力を消費すれば攻撃が行えるものがある。
これは武器に限った話ではなく、アクセサリータイプのマジックアイテムにも同じ効果を持つ物が存在する。
「す、凄いですね」
「それと、切れ味上昇と脚力強化の効果が付与されてる。ランク三だからそこまで効果は大きくないかもしれないが、役に立つとは思う」
「じゅ、十分過ぎます! 本当にありがとうございます」
「仕事だからな」
ジュリアスからきっちり金貨三枚を受け取り、仕事は終了。
そこでソウスケは一つ思い付いたことをジュリアスに伝えた。
「そういえばミレアナが最近は杖造りにハマってるらしい。もし魔法メインで戦う生徒がいれば、ミレアナに制作依頼をしてみると良い。まっ、ミレアナとは今別行動だからメッセージは冒険者ギルドの方に送るようにしてくれ」
「はい、分かりました。そういえばミレアナさんは一人でダンジョンに潜ってるんですよね」
「そうだな。もしかしたら今頃上級者向けのダンジョンを探索してるかもな……いや、ギルドで面白そうな依頼を見つけてそれを受けてるかもしれないな」
別行動している間は自由に時間を使えと伝えている。
ミレアナもダンジョンに潜るのは好きだが、その他のことについて興味がゼロではない。
「……やっぱり何度考えても、ダンジョンを一人で潜るっていうのは常識離れしてますよね」
「普通に考えればそう思うだろうな。でも、俺やミレアナ……多分ザハークも結界系の魔法が使えるから、ダンジョン内で休憩しててもモンスターに襲われる心配はないんだよな」
完全にどんなモンスターの攻撃も防げるわけではないので、ミレアナもここより下には行かないと線引きはしている。
だが、上層から中層のエリアであればモンスターだけではなく、同じ同業者でも結果を突破するのは難しいということもあり、ソロで潜っていても休憩中に被害を受けることは殆どない。
「まっ、そういうわけだから杖が欲しい奴らはミレアナに頼むのもありだと伝えといてくれ」
「分かりました。それでは、失礼します」
ジュリアスは感謝の意も込め、大きく頭を下げてギルドから出て行った。
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