五百七十九話 それなりに時間が必要

「調子どう?」


「普段通りですね」


たまたま夕食の時間があったので、三人で一緒に夕食を食べていた。


「まだ上級者向けのダンジョンには入っていません。中級者向けのダンジョンの最下層ボスを二度ほど倒しました」


「複数のトレントとエルダートレントがいるボス部屋か……もしかして素材が欲しかったのか?」


「その通りです。錬金術で杖を作ろうと思いまして」


「へぇ~~~、俺も最近作ろうかと思い始めた。それなら、トレントやエルダートレントの素材は杖を作るのに適してるからな」


杖を作るなら二十一階層から三十階層に生えている木には、稀に通常の木ではなく珍しい木が生えている。

そういった木も杖の素材となるので、ミレアナが上級者向けのダンジョンに向かわず、中級者向けダンジョンの下層に潜る日はこれから多くなる。


「そうですね……ただ、三十層のボス部屋に挑むとき、毎回他の同業者が一緒にボスに挑まないかと声を掛けてくるのです。それが物凄く鬱陶しいです」


超ストレートな言葉を聞き、ソウスケは断られた何処かにいる同業者たちに合掌を送った。


「ミレアナの実力は飛び抜けているからな。魔法と弓の遠距離攻撃。それだけではなく鋭い五体から繰り出される拳や蹴り。弓以外の武器も使えるのだろう。一緒に組めばボスの討伐成功率が必ず上がる。故に、そういった誘いはなくならないだろう」


ザハークの言葉はまさに的を得ていた。

だが、ミレアナが誘われる理由は当然だが……他にも理由がある。


(ミレアナの場合、男からは共闘してあわよくば縁を作って奇跡が起これば恋仲に……なんて考えてる輩も絶対に居るんだろうな)


ミレアナは全くそういうのに興味がないので、相手が誰であろうとお断りしている。


「どうだろうな。ミレアナが三十層のボスに挑むたびに同業者からの誘いを断ってれば、いずれその話が広まってボス部屋まで声を掛ける人がいなくなるかもしれないぞ」


「私としてはそうなってくれることを望みます。ダンジョンに入る時には誰も声を掛けなくなったので、ボス部屋前もそうなることを祈るばかりです。ところで、お二人も鍛冶作業は順調ですか?」


「それなりに順調だ。戦いとは違う楽しさがある。腕も錆びていなかった」


「俺もザハークと同意見だな。物を造るのはやっぱり楽しいよ……一応仕事を請け負ってるから色々と作業として作らないといけない物もあるけど」


チェスとリバーシに関しては職人たちが作り、売り上げの一部がソウスケの懐に入って来る。

ただ、エアーホッケーに関してはソウスケ自らの手で作っているので、空いてる時間に作業を進めていかなければならない。


一台白金貨五枚……は、ソウスケの懐に入って来る値段。

実際にはもっと高値で売られているのだが、それでもエアーホッケーを求める声は多い。


(ここ最近はダンジョンに夢中だったから、あんまり作業が進んでなかったんだよなぁ~~~)


メインは冒険者。

商人としての活動は完全に副業なのだが、依頼人から頼まれた仕事を断る訳にはいかない。

制作が遅れれば迷惑を掛ける人たちがいるので、ひとまずダンジョンに集中して潜らず物を作る機関の間に、エアーホッケーも集中して作りたい。


(ある程度慣れてきたとはいえ、ささっと作れないから面倒なんだよな……大金が入ってくるから頑張るけどさ)


指定の形に整え、やすりで荒い面を無くして魔石を砕いて一枚の板に変えたボードをしこむ。


(そういえば魔石の量は足りるか? 相変わらず倒したモンスターの素材は貯め込んでるから今のところなんとかなるとは思うけど……せっかくダンジョンがある街に滞在してるんだし、ただただ狩りまくって魔石を溜めるのもありか)


ダンジョンでは無限にモンスターが現れ続ける。

一気に狩れば少しの間は安全な空間になるかもしれないが、モンスターはどこからともなく出現する。


(本当にそこはダンジョンの不思議要素だよな……俺たち冒険者にとってそこが有難い点ではあるんだけど)


考察するのは面白いが、考えたところで正解には辿り着けなさそうなのでソウスケは考えることを諦めた。

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