五百三十八話 養われていても解らない
「……本当に鬱陶しいですね」
「ははは、しょうがないって。どうしても俺たちの組み合わせはアンバランスだからな」
ギルドの中に入れば、二人はいつもの様に他の冒険者たちから視線を集める。
といっても、大半の視線を集めているのミレアナ。
ソウスケには「なんであんな子供が美人なエルフの姉ちゃんと一緒に行動してるんだ?」といった疑問や嫉妬の視線しか向けられない。
「すいません、ちょっと良いですか」
「はい、なんでしょうか」
「自分宛てに依頼が来てると思うんですけど、届いてますか」
ギルドカードを見せ、自分の名前とランクを伝える。
それを見た受付嬢は何故ソウスケが自分に依頼が来ていないか、そんな大御所感のある質問をしたのか理解した。
「届いていますよ、少々お待ちください」
「分かりました」
受付嬢は駆け足でカウンターの奥へと向かう。
受付嬢が急いでカウンターの奥へと向かった。その対応を見ていた冒険者たちがざわつきだす。
「本当に面倒な人たちですね。黙らせた方がよろしいでしょうか?」
「いいって、いいって。ほっとけ。もう慣れたよ……ちょっと鬱陶しいのは変わらないけど」
ギルド内の冒険者の大半は、ソウスケはミレアナにおんぶ抱っこで生活していると思っている。
世間一般的に呼ばれる屑職業である……ヒモ。
どういった理由で一緒に行動しているのか解らないが、どうせヒモの様な生活を送っているのだろう。
しかし二人に対して個人的な依頼が来ている。
直ぐ傍にいた者たちは最初、ソウスケの発言を聞いて鼻で笑った。
お前みたいなちんちくりんに指名依頼が来るはずないだろと。
だが、受付嬢はEランク冒険者であるソウスケに指名依頼が来ていることを、事前に把握していた。
「お待たせしました、こちらの依頼がお二人を指名して届いています」
ダイアスたちが所属するラドウス学園から、臨時教師としての依頼。
期間は一週間、報酬は金貨三十枚。
かなり破格の条件だ。
Eランク冒険者に提示する金額とは思えない。
受付嬢は初めてのその依頼内容を見た時、自身の目を疑った。
上の人間に依頼内容を確認した方が良いのではと進言した。
ただ、それは上の人間が既に行っていた。
ラドウス学園はこの街ではそれなりに有名な冒険者学校。
平民だけではなく、貴族の子息や令嬢も多く通っている。
そんな学園の臨時教師としてEランクの冒険者を雇う……しかも報酬が一週間で金貨三十枚。
とんでもない好待遇だ。
頭おかしいだろ。
依頼内容を見た大半の者が口に出さずとも、心の中で呟いた。
ただ、受付嬢は目の前で指名された人物を見て、それなりに依頼内容に納得した。
(エルフの女性は、間違いなく一級品の実力を持っている)
実戦経験がなくても、受付嬢を何年も続けていればそれなりに眼が養われる。
ミレアナが強者であることは解かった。
しかしソウスケについては、判断に迷うところがある。
そこら辺にいるルーキーではない。
それはなんとなく解るが、正確な実力が全く把握出来ない。
弱くはないと解っていても、一週間で金貨三十枚を渡すだけの実力があるのか、深く読めない受付嬢には解らなかった。
「臨時教師として学園に向かう場合、連絡等で明日から依頼を始められることが出来ます」
「分かりました」
「学園側からは朝の七時前に来て欲しいとのことですが、お時間は大丈夫ですか?」
「七時……まぁ、そうですね。大丈夫です」
正直早いと思った。
もっと寝たい。いつもなら寝てる時間。
だが、そこで一つ思い出した。
学校とは朝早くから始まる。
生徒たちの先生として授業する前に、ダイアスや他の教師に挨拶をする時間があるかもしれない。
そういった常識、用事を考えると朝早く起きなければならないのに直ぐに納得した。
(朝早く起きるのは苦手だったけど、こっちに来てからいつも昼手前ぐらいに起きてたからな……偶には頑張って朝早く起きるか)
「それではこちら、ソウスケさんとミレアナさんが依頼を承諾したという証明書になります。こちらを持って学園に向かえば、すんなり入れます」
「なるほど、ありがとうございます」
用事を終えた二人は永遠と途切れない鬱陶しい視線から解放されるためにギルドから速足で出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます