五百二十二話 今は退屈だが……

「これさぁ……どう考えてもおかしいよな」


「そ、そうですね……最高の無駄遣いかと」


冒険者なら、誰もが一度は憧れるミスリル製の武器。

そのミスリルが……フライパンと鍋に使用されている。


鑑定で調べたら、どんなに熱しても冷やしても変形せず、毒が染み込んだ食材を浄化してしまう。


「……一応それなりに良い効果は付与されているみたいだけど、それでも無駄遣いだと思えてしまう」


「ミスリルは武器の素材、もしくは糸に変形させて服の素材に……ドワーフなら遊び心で自身の仕事道具に変えてしまうかもしれませんね」


「それはまだ解るけど……やっぱり鍋とフライパンの素材にミスリルを使う人は絶対にいない……と断言は出来ないかもしれないけど、滅多にいないだろ」


ソウスケの考えている通り、そんな人物は滅多にいない。

ただ、この三セットはしっかり今後使っていこうと思っている。


ミスリルは確かに貴重な鉱石だ。


この鍋とフライパンを溶かし、武器の素材として使用するのは可能。

可能だが……ミスリル鉱石はソウスケ達にとってそこまで貴重と捉える鉱石ではない。


ソウスケの懐はモンスターの素材や商品を売ったお陰でとても暖かい。


なので、ミスリル鉱石は余裕で自腹で買えてしまう。


「一応このフライパンで焼いたり、鍋で煮込めば毒を浄化出来るらしいから……今後、二つとも使っていこうと思う」


「毒の浄化ですか……それは良い効果ですね。肉に毒が染み込んでいるせいで食べられないモンスターの肉がありますが、そのミスリルの器具で調理すれば、大抵の毒は浄化か出来そうですね」


「そうだな……まっ、ミスリル鉱石で調理器具を作ったとしても、同じ様な効果が得られるかは解らないけどな」


その日は既に夕食を食べ終えているので、二人はそのまま就寝。


そして翌日、三人はいつも通り順調にダンジョン探索を進めていく。


「ふむ……こうも通常通りではつまらないな」


「ダンジョン内では通常通りを望むものですよ」


一般論をミレアナが返すが、ザハークの気持ちは変わらない。

寧ろ、自分達にとって通常通りでは物足りないと思っている。


「確かにそうかもしれないが、この階層でいつも通りの状況が続いても……大した刺激は得られないだろ。なら、何かイレギュラーが起こった方が絶対に面白い!!!」


自信満々に宣言するザハーク。

一般人から見れば頭おかしいだろと思われる発言だが、自分達の実力を考えれば間違ってはいないので、二人は苦笑いになってしまう。


「一応二十一階層に転移して、直ぐにモンスターパーティーと遭遇して戦っただろ。あれもダンジョンイレギュラーだぞ」


「……それもそうだが、あまり刺激がなかっただろ」


「そりゃBランク以上のモンスターがいなかったからな……まっ、上級者向けのダンジョンに行けば強いモンスターと沢山戦えるって」


「ふむ……なら、とりあえず今はダンジョン探索を楽しむしかないか」


なんだかんだ言って、ザハークはダンジョン探索に楽しさを感じている。

自分に向かって容赦なく襲い掛かってくるモンスター。


宝箱の中身にも驚かされる。

寝起きにソウスケから宝箱にミスリル鉱石が使用されたフライパンと鍋が入っていたと聞かされた時、一瞬で眠気が吹っ飛び、大笑いした。


趣味で鍛冶をしているので、ザハークにもミスリル鉱石の価値は知っている。


(そういえば今朝、ソウスケが面白い物を見せてくれたな。確かミスリルのフライパンと鍋……ふっ、現実ではほぼほぼ売ってなさそうな器具だ。ダンジョンの遊び心というやつか?)


今朝の出来事を思い出し、心の中で笑ってしまう。


今はモンスターの歯応えの無さに少々退屈しているが、それでも楽しんでいるのは事実。

ただ……少々刺激が足りないと思っているのも本音だ。


「そういうことだ……ほら、丁度モンスターがやって来たぞ」


「……随分と毒々しい蜘蛛だな」


「そ、そうだな……ちょっと食欲が失せる色合いだけど、あれを試すにはもってこいか。名前は……ポイズンスパイダー。そんで、奥にいるのはクイーンだな。ちなみにランクはC。周りにはDだ」


「DとCか……まぁ、色々と試すには丁度良い相手か」


敵対モンスターが状態異常や搦手が得意なので、ザハークは力押し以外の戦法を行うことにした。

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