五百十七話 終わった後は修復
「さて、そろそろ始めよっか」
「そうだな」
盗賊の討伐を終えた二人は周囲に同業者がいない事を確認し、軽く模擬戦を始めた。
スキルは使わず、己の身体能力のみを使った模擬戦だが、人によっては金を払ってでも見る価値があると
思える戦いが繰り広げられる。
ジャブで牽制してから右ストレート余裕のステップでザハークが躱し、その隙に右足で前蹴りを放つが一本足のステップバックであっさりと交わしてしまう。
裏拳を躱せばボディが飛んで来る。
しかしガッチリガードされて手刀で反撃される。
それを気合で受けきって肘をぶつけようとする。
攻撃を躱すこともあれば、互いの攻撃をガードしたり同じ技がぶつかることもあるので、その衝撃波で周囲の木々が大きく揺れる。
場合によっては折れてしまい、興味を持って近づいてきたモンスターは本能的に襲われたら勝てないと思い、その場から全速力で逃げだす。
そんな模擬戦が三十分ほど続き……二人は一旦そこで止めにした。
「ふぅーー、やはりソウスケさんとの模擬戦は楽しいな」
「そうか? 俺も腕を鈍らせない良い運動になってるよ」
周囲の木々に影響を与えるような戦いをしていた二人が、実際に本気では戦っていない。
スキルを使っていないということもあるが、素の身体能力を全て引き出している訳でもない。
せいぜい八割に抑え、万が一の事態が起きないように模擬戦を行っている。
「にしても……何本か木が折れてるな」
「蹴りと蹴り、拳と拳がぶつかった時の衝撃は中々だからな。ここら辺にある木は普通の木だ……それを考えれば、衝撃であっさりと折れてしまっても仕方ないだろう」
「それもそうか」
折れたり欠けている木の他にも、地面にはいくつかのクレーターができているが、環境破壊と言える程二人の周囲は無茶苦茶になってはいない。
「そんじゃ、次は武器を使ってやるか」
「そうだな、お互いに武器は同じにするか?」
「ん~~……とりあえずそうするか」
休憩を終えた二人はだいたい十分刻みで武器を変えて模擬戦を続けていった。
長剣、短剣、槍、大剣、短槍、二刀流、ハンマー、槌などの武器を使い、衝撃を飛ばすのはなしというルールを決めて一時間以上は戦い続けた。
その結果……周囲の状況は素手での模擬戦より荒れてしまった。
「……とりあえず地面は直しておくか」
同業者に不必要な不安を与えるのは良くないと思い、クレーターとなった地面は元に戻す。
そして欠けた木々の部分は少し魔力量を消費するだけで元通りに出来るので、ささっと直してしまう。
「これで良し、大体元通りだよな」
「そうだな。折れた木々もモンスター同士の戦いがあってそうなったと思う筈だ」
実際にモンスター同士の戦いで木々がバキバキと折られ、地面が陥没……最悪の場合は火災となるケースもある。
だが、ある程度知識を持っているモンスターならば火は水で消せると知っているので、なんとか自分達で鎮火しようと消火活動を行う。
そして原因となったモンスターはその戦いに勝ったとしても、他のモンスター達から恨みを買って殺されてしまうケースもある。
ただ、そこそこの技術を持つモンスターであれば、自ら放った火を消すことができるので大抵は火災にならずに済んでいる。
「それで今回の戦いで分かったが……あまり俺には短剣と短槍は合わないな」
「あぁ~~、確かにそうかもな。長剣や槍と比べて扱いにくそうだったもんな……ザハークの筋力を考えれば大抵の武器は軽々と扱えるから、逆に軽すぎる武器はちょっと使い辛いのかもな」
ザハークの筋力ならばハンマーや槌、大剣であっても軽々と扱える。
振るスピードも通常の武器と変わらない速度だ。
そしてただ振り回すだけでなく、動きの中に技術が入っているので対峙する敵としては脅威でしかない。
(ハンマーと槌を二つ持って平然と振り回すんだし……敵からしたら四方八方から一撃必殺が飛んで来るような形……うん、それは超怖いな)
敵の攻撃がそこまで速くなければ恐怖は感じないが、ザハークの攻撃スピードは並ではない。
ソウスケも模擬戦をしていて何度かひやひやした場面があった。
「さて、あと一一周したらそろそろ帰るか」
「そうだな。もう二時間ぐらい経てば丁度良い時間か」
常人ならばここで街に帰って疲れを癒すのだが、スタミナが化け物な二人の模擬戦はまだまだ続いた。
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