五百六話 活かせない場合もある

「わざわざ細かく答えてもらってすまないね」


「別に構わないですよ。そんな大した情報ではないですから」


事実としてソウスケがダックスに伝えた内容は珍しいものではない。

少し考えれば解かる内容だ。


だが、多くの者は多くの技術を得ようと手を伸ばさない。

色々な技術を得ようと手を伸ばすより、一つを極めた方が戦いを有利に進められる。


その考えが間違っている訳ではない。

だが、街の外やダンジョンの中で多くの実戦経験を得て総合的に強くなるのであれば、体力や魔力をなるべく消費せずに戦い、ここぞという場面で使える物を使う。


そうすれば自ずと強くなり、危ない場面に遭遇しても上手く切り抜けられるとソウスケは考えている。


「いえ、こうして私以外の者から真剣に教えられるのが重要なのです」


「そ、そうですか? まぁ、自分の言葉が門下生たちにしっかりと伝わって役に立っているならそれは嬉しいですけど」


投擲、砂かけ、その他の武器を使用して雑魚を倒す。

ソウスケが考え付く節約攻撃は才能などなくても特に問題はない。


「努力と経験を積み重ねていけば、ダンジョンの中でもそうそうモンスターに殺されることはないと思いますよ」


「それは嬉しい限りです。門下生たちが亡くなるのは……心にきますからね」


レガースが師範になってから数年が経ったが、その間に卒業した門下生たちが亡くなったという話を聞き、何度も涙を流した。


ダンジョンで探索していることもあり、冒険者の知り合いも多い。

門下生たちよりも知識を持っている筈の彼らも命を落とす。


レガースは何度も自分と縁がある人物の死を伝えられ、泣いて……泣いた。

門下生のまで無様な姿は見せられない、それは解っているので次の日になるまで涙を枯らしてしまう。

そうしなければ、まともに生徒達の前で立って指導が出来なくなる。


(ソウスケさんの教えを学べば、生徒達が卒業してから戦闘で亡くなる可能性も下がる筈だ)


レガースは強かった。体術は卒業してから後々に覚えた技術。

大抵の敵は轟炎流で蹴散らしてきたので、投擲や砂かけ。閃光玉等を使って敵を倒すという考えに至らなかった。


「……ただ、レガースさんも解っているとは思いますけど、ダンジョンや街の外で襲い掛かってくる敵はモンスターだけじゃありません。盗賊、同業者が襲ってくる場合もあります。それを考えると対前線を想定した轟炎流剣術を覚えていることは大きな利点だと思います」


冒険者も経験が重なるにつれて対人戦の技術を身に着けていく。

しかし長い間そういった技術を学んできた相手には劣る場合が多い。


それはレガースも解っており、誇れる部分でもあるのだが表情がやや曇っている。


「確かに轟炎流は対人戦を想定した剣術です。ただ……それでも街の外やダンジョンの中だと実力を発揮出来ないところがあります」


「…………なるほど。確かに木々がある場所。高低差がある場所だと厳しい戦いになるかもしれませんね。それならそういった場所を想定した訓練を行う方が良さそうですね。土魔法を使える人を雇えば期の代わりに土中を生み出したり、高低差を再現できるかと」


「ソウスケさんの考えは決して難しくはない内容です。土魔法のスキルレベルが高くなくとも実施は可能かと思われます」


ミレアナもソウスケの意見に賛成だった。

どんなに轟炎流剣術が優れていても、障害物がなく地面が起伏していない場所でなければ全力を発揮できない。


そこをどう補っていくか、そこら辺が実戦で生き抜いていく為に必要な技術になる。


「そういった場面で轟炎流の技が使えるかは分かりません。全く基礎とは違う動きになるかもしれませんが、そんな状態での動きに慣れて回答を導き出せるようになれば生存率はグッと上がるかと」


「私も勉強しながらといったことですね……ふふふ、久しぶりに気分が上がって来ました。そうなると私が少しでも教えられるように実戦を経験しておいた方が良さそうですね」


普段はそういった事を考えず、自身の実戦での腕を鈍らせないことを目的に戦っていたレガースだが、普段の戦いに目標を持てると解り、自然と心が熱くなっていた。

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