五百五話 鋭く思えるが
「そこまで!!!」
ミレアナの合図と同時にレガースとソウスケは開始位置付近まで離れた。
一分間絶えず続いた模擬戦だったが、お互いに一回もクリティカルヒットはなく、木剣は少々形が凹む結果となった。
「流石ソウスケさんだ。私の眼に疑いはなかった」
「レガースさんこそ本当に強かったです。一撃ぐらいは良いのが当たるかなって思ってたんですけど……一撃も当たりませんでしたし」
「はっはっは!! これでも一応師範だからね。門下生たちの前で無様な姿はさらせないよ」
二人は握手を交わし、お互いの健闘を讃える。
レガースにしても一分間の間にどれかは確実に当たる、もしくは何回か掠りはすると思っていた。
しかし自身の攻撃は一度も当たらなかった。ソウスケからの攻撃を食らうことはなかったが、少々予想外だったことは認めなければならない。
(モンスターを相手にするならソウスケさんの方が有利だが、対人戦なら自分に分があると思っていたが……それは甘い考えだったな。ソウスケさんは強い……従魔であるザハークさんがあそこまで強くなる訳だ)
ザハークの強さの大半は本人の才能や努力、実戦経験が埋めているがソウスケのアドバイスもザハークの実力を強化するのに役立っている。
「ソウスケさんならAランクモンスターが相手であっても単独で倒せるだろう」
「自力だけでは厳しいですよ。自身が使っている装備を併用すれば確率は高くなると思いますけど」
自分はこの世界に来て人外的な強さを手に入れた。
その自覚は持っているが、相手も同じく人外的な強さを持っているならば蛇腹剣や他のマジックアイテムを装備していなければ少々厳しい戦いになる。
「その歳でそこまでの強さを身に着けていれば十分だよ。それに……これからまだまだ強くなるつもりだろ」
「強くなるというか……冒険は続けようと思っています」
もう十分に実戦的な強さを得ている。
だが、まだまだ冒険したいという気持ちは溢れているので旅は続ける。
その結果……ソウスケが今よりも強くなる可能性は十分にあり得る。
二人の戦いが終わり、ザハークと門下生が始まろうとしたとき、一人の門下生がソウスケに声を掛けた。
「すいません、少し質問しても良いですか」
「お、おぅ。別に良いけど……ザハークとの模擬戦が始まるから少しだけな」
「ありがとうございます。自分はダックスです。師範との模擬戦を観るまで、正直ソウスケさんの強さを侮っていました。ただ、師範との模擬戦を観てその考えは覆りました」
正直に侮っていたと告げられたのには少々驚いたが、その後に実力を認められたことにホッとした。
(いきなり決闘を挑まれるかと思ったが、そんなことはなかったな……でも、結構鋭い雰囲気を持った人だな)
人は見た目で判断してはならない。
それはソウスケも理解しているが、ダックスの鋭い認めからして何か文句を言われるのかと身構えていた。
「そこで単刀直入にお聞きします。どうやったらそこまでの強さを身に着けられるのですか」
心の底から知りたいと思った。
自分と殆ど年齢が変わらない少年が尊敬する師範と互角に戦っている……あり得ないと思える光景が、目の前で起こっていた。
「……凄い当たり前のことだけど、実戦を重ねることが一番かな。実力を伸ばすにはそれが一番良い。それで、連続で戦闘をこなすには戦える方法をなるべく多く揃えておいた方が良いかな」
「なるほど……そ、その色々を教えて貰っても良いですか」
「良いよ。ダックスは轟炎流剣術を使うから長剣、もしくは大剣をメインに使うだろ。それなら魔法は高速詠唱、もしくは詠唱破棄のスキルを覚えれば有利だな。それと、俺的には体術と投擲とある程度のレベルまで上げれば、メインの敵だけに集中して剣を使えるようになる」
「体術と投擲……魔力や体力を消費しない面で役立つ、ということですね」
轟炎流を習っている事に誇りを持っている。
だが、ソウスケの説明を聞いて納得出来る部分があった。
「そういうこと。自分の実力を考えれば剣を抜くまでもないってモンスターはいるでしょ」
「はい、何体かはいます」
「そういった相手は落ちてる石ころを思いっきりぶん投げれば一発で倒せる。狙ったところに投げられるようになるまで時間はかかるかもしれないけど、習得出来たら雑魚を倒す時間と労力は少なくなるはずだよ」
「……ありがとうございます、今後の訓練の参考になりました」
まだまだ聞きたい事はあったが、ザハークとの模擬戦もあるので頭を下げて戻って行った。
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