四百九十四話 条件クリア?

「……つまらんな」


ボス部屋に立っていたモンスターはブラウンウルフに跨っている五体のホブゴブリンとグレーグリズリー。


機動力があるブラウンウルフに跨ったホブゴブリンと、一撃の威力が高く耐久力もあるグレーグリズリーは確かルーキー達にとって脅威となる存在だ。


だが、ザハークの力の前ではそんな有象無象の力など関係無く、戦闘開始十秒程度でミンチにされてしまった。


「はっはっは!! やっぱりボスでも全く相手にならなかったか」


「ブラウンウルフに跨ったホブゴブリン、そしてグレーグリズリー……合わせてDランクの実力。それを考えれば、この結果は当然ですね」


二人はミンチにされたモンスターから魔石を回収していく。

ザハークも少しは働かなければと思い、グレーグリズリーの解体を行う。


ボスを全て一人で倒したのだから、十分に働いているだろうと第三者は思うかもしれない。

だが、ザハークにとってブラウンウルフ、ホブゴブリン、グレーグリズリーの討伐ていどは働いたという感覚を得ない。


「買った情報には素早く動くブラウンウルフとそれに跨るホブゴブリンの討伐に戸惑っている隙をグレーグリズリーが突き、潰されてしまうと書かれていたが……本当に一瞬で頭を刈られたよな」


グレーグリズリーはザハークよりも体が大きいのだが、何か行動しようとする前に身体強化を使用したザハークに頭を刈られ、視界が真っ暗になってしまった。


「俺達がわざわざ実力以下のダンジョンに潜ってるっていうのもあると思うけど、ここまで早くボスを倒したのはザハークが初めてなんじゃないのか?」


「どうでしょうか? そこまで詳しくは分かりませんが、おそらく最速かと思われます」


この初心者用ダンジョンは三人の実力に見合っていない、難易度の低いダンジョン。

なのでザハーク一人でボスを蹴散らしてしまうのも当然の結果。


だが、ダンジョンはその結果に対して褒美を用意していた。


「ソウスケ、この宝箱はどうするんだ?」


ボスを倒した褒美として何もない場所に突然現れた宝箱。

しかしその宝箱の見た目は今回の探索最中に見つけた宝箱とは少々違っていた。


「……なぁ、なんか違うよな」


「確かに違いますね……もしかしたらですが、ザハークがあまりにも早く倒したので、普段討伐の褒美として手に入る宝箱とは中身がワンランク違うかもしれません」


特殊な倒し方をすることで、宝箱の中身が変化する。

それはギルドでも確認されている内容が多いが、このダンジョンに関してはまだ見つかっていなかった。


「へぇ~~、十秒掛からない程度で倒したもんな」


好奇心が勝ったソウスケはその場で宝箱に付いている錠を解錠した。

そして蓋を開け、中身を見てみるとそこには赤い鞘に収まっている短剣が入っていた。


「えっと……火の牙。ランクは三で自身の魔力を消費して刃に火を纏うことが出来る。そして敵を斬りつける瞬間に切れ味が増す」


「なるほど、確かに牙ですね」


ルーキーが持つ武器としては中々の上物。

隠れた褒美としては相応しい品と言える。


「ザハーク、お前が倒して手に入れた武器だ……どうする?」


「どうすると訊かれてもな……俺は短剣を使う事は殆どないだろう。それにそれぐらいの武器であれば自分でも造れそうな気がする」


火山付近で火属性のモンスターの素材を多く手に入れたので、火の牙を超える性能の武器は造れる。

ザハークの腕を考えればランクの高い素材を使わずとも、平均的な素材でほどほどに良い武器を造るのは難しいことではない。


「だからそれをどうするかはソウスケさんが決めてくれ」


「そうか……とりあえず保管しておくか」


火の牙は一旦亜空間に放り込まれた。

ソウスケが実戦で使うことはゼロに近いが、使い道がないとも言えない。


「ソウスケさん、今回の事はギルドに報告しますか?」


「どうしようか」


今回のような隠し要素の情報がギルドで高値に買い取られる。

火の牙の価値がそこまで高くないので、ソウスケの所持金を考えれば雀の涙かもしれないが、悪くない金が手に入る。


「今回の事は……報告しなくて良いかな。無駄にベテラン陣がこっちのダンジョンに潜って来そうだし」


火の牙も売ればそこそこの値になる、

金目当てで多くのルーキー達が潜るこのダンジョンにベテラン陣がやって来るのはよろしくないと判断。


本当にソウスケは地上に戻った後もギルドにこの事を報告しなかった。

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