四百八十七話 上手く回っている
「そもそも、好きでもない分野について学んでいても楽しいと思えないだろ」
「……だろうな。体を動かすのは好きだが、歴史とかそういうのには興味が無い」
「まぁ、分からなくもないですね」
世の中には学問を学びたくても学べない子供が大勢いる。
それはこの世界でもソウスケが少し前まで生活していた前の世界でも同じだ。
勿論、それはソウスケも解っている。
自分にとっての当たり前が、他の人にとっての当たり前ではない。
それは生活状況だけではなく、考え方にも同じ事が言える。
「……この世界でも、どこどこの学校を卒業したという証が卒業後のキャリアになるんだろうから、学問も強さもそのキャリアを得る為に必要なんだろうけど……やっぱり俺は冒険者の方が性に合っているな」
興味がない事を学ぼうとは思えない。
ソウスケのその考えは変わらなかった。
「というか、この街は露店の数が他の街と比べて多いな」
武器や防具、服にアクセサリー、食器や家具など様々な露店がある。
数はまだまだだが、ソウスケ達が今まで回ってきた街もそこそこ賑やかだったが、エレディアのそれは比にならない。
「生産系の学園、塾があると考えると他の街にはない露店があってもおかしくありません。だから露店の数が多く感じるのだと思います」
「それもそうか……また武器とか防具を造って露店で売るのもありだな」
「また売るのか? それなら気合を入れて造らないとな」
武器は己の命を預ける相棒。
それは冒険者ではないザハークもなんとなくではあるが解かる。
扱う素材によってランクの限度は変わってくるが、それでも全身全霊を込めて造ろうと改めて思ったザハーク。
「それなら……私はポーションの類でも一緒に売りましょうか」
「武器や防具とポーション……戦いに向かう人達にとっては全て必要な道具だな」
後日、三人で露店を開いて商品を売ろうと決めたソウスケはまず売られている商品に鑑定を使いながら調べていく。
(……学習都市だからこそ品揃えが良いって訳じゃないんだな)
講師であるプロが制作している作品はどれもランクが平均より上で、品質も良い。
ただ、練習生や生徒が制作している作品はまだま荒い。
(でも、生徒や練習生達が縁を持つには良い場所なのかもな)
貴族の子息や令嬢ではない生徒や練習生達はあまり高価な物を買うことが出来ない。
そして貴族の子息や令嬢でも、家の事情であまり自由に使えるお金が多くないという場合もある。
そんな者達がプロの作品を買うことは基本的に無理……しかし、見習い鍛冶師や裁縫師が制作した作品であれば買える可能性がある。
そこで職人と買い手はお互いの顔を覚え、縁が生まれていく。
「何か気になる商品はありましたか?」
「いいや、今のところは無いな。品質は結構バラバラだ……ただ、品質と値段相応にちゃんと売れているんだとは思った」
品質が低い作品の値段は低く、品質が高い作品の値段は高く……そこを崩していない。
そして客層が幅広いので、全ての商品がある程度買われてる。
(駆け出しの品でも、それを駆け出しが買う……上手く回ってるな)
エレディアほど街の物資と金が上手く回っている街はない、そう思える程に街中は賑やかだと感じたソウスケ。
ただ、その日は料理以外露店で何かを買うことは無く宿に戻り、夕食を食べ始めた。
「……ソウスケさん、明日からはどうなさるのですか」
「ん~~……折角ダンジョンが三つもある街なんだし、全部クリアするまではこの街にいようかなって思ってる」
やはり冒険者としてダンジョンはクリアしておきたいという思いがある。
三つのうち、上級者用のダンジョンは難易度が高いのだが……ソウスケ達の戦力を考えればクリアは不可能では無い。
ただ、難点があるとすれば一階層ごとの面積が広いので、次の階層に繋がる階段を見つけるのが面倒という点だろう。
(とりあえず明日には三つのダンジョンの地図をギルドで買うとするか)
特別な依頼を受けてり最中でも無いので、急いでクリアを目指す必要は無い。
しかしソウスケ達の実力を考えればある程度の階層まで潜らないと刺激がないのも事実だった。
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