四百八十二話 心配なので

「面倒事は終わりましたか?」


「あぁ。てか、別にそんな面倒なことでは無かったよ」


「そうなのですか?」


「そうだよ。話が解る人だったしな。それに、提案された話も善意あってこその内容だからな」


ギルドマスターの部屋から出て来たソウスケはミレアナと合流した。


「……その提案とは、ランクに関してですか?」


「よく解ったな。そうなんだよ、Dランクへの昇格試験を受けないかって言われたんだよ。確約付きでな」


「確約……それは、裏事情的な意味での?」


あまり大きな声で話す内容では無いと思い、聞き取れる最低音量で会話を続ける。


「裏的な意味でだ。まぁ……今回の功績を考えれば妥当なんだろうけどな」


Aランクモンスターを従魔一体が倒してしまう。

ギルドとしてはそんな強力な戦力を低ランクに置いておきたくはない。


「ザハーク一人で倒してしまいましたからね……でも、私やソウスケさんの実力は疑うものではありませんか? 結局は従魔一体のお陰で上げた功績だろうと」


「それがそうでもなかったんだよ。この街のギルドマスターはどうやら元冒険者だったみたいだからな」


「ある程度は見破られた、ということですか」


「そういうことだ」


二人がギルドの外に出ると、そこには待機していた筈のザハークが子供達に絡まれていた。


「……ザハーク、何をしてるんだ」


「むっ、こいつらが俺に話しかけてきたから相手をしていたんだ」


(……休日に子供の相手をするお父さん的な光景だな)


特に怪我をすることなく接することができ、人の言葉を話せるモンスター。

子供達にとってはこの上なく珍しい存在であった。


「お偉いさんとの話は終わったのか?」


「あぁ、問題無く終わったよ」


「そうか」


主であるソウスケの用事が終わったので、もうここに留まっている必要は無い。

なのでソウスケ達と一緒に動こうとするが、もちろん子供達からは不満が漏れる。


「え~~~~、もっとお話し聞かせてよ!!!!」


「そうだそうだ、もっと聞かせてくれよ!!!!」


いつの間にかザハークは子供達から人気を得ており、ギルドの前から離れようとすると子供達が着いて来ようとする。


「……ソウスケさん、なんとかならないか?」


「いや、そんなこと言われてもなぁ……」


無邪気な子供相手にソウスケはどう対応すれば良いか解らない。

そして頭を悩ませ……一つだけ案が浮かんだ。


「よし、いまここにいる全員で俺を押してみろ。それで俺を動かすことが出来たらザハークがもう少し付き合ってくれるぞ」


「ほんとうに?」


「あぁ、本当だ。ただし、押す以外の行為をしたら直ぐに帰るからな」


「よっしゃっ!! みんな、頑張るぞ!!!」


「「「「おぉーーーっ!!!!」」」」


どう考えても無謀な話だ。

子供は全員で六人、年齢は五歳から七歳ほど。


幾ら数が集まろうとも、ソウスケの踏ん張りに敵う訳がない。

三分ほど子供達は多くの方法でソウスケをその場から動かそうと試行錯誤するが、結局一ミリもソウスケを動かすことは出来なかった。


そいて子供達は全員力尽き、地面にへたり込んでしまう。


「もっと筋肉を付けたら今度は動かせるかもな。じゃあな」


流石にチャンスをくれた結果、叶えることが出来なかったので駄々をこねる子供はいなかったが、ソウスケの言葉を真に受けて本当に筋肉を付けてソウスケを動かそうを思った子供が何人かいた。


だが……残念なことにソウスケは後数日も経てばこの街から出て行く。

そうなれば、子供達がソウスケに……ザハークに会うことは出来ない。


「ソウスケさん、今後はどういたしますか?」


「……リアス達を学園まで送ろうかなって思う。持っている素材が素材だからな」


リアス達から受けた依頼内容は珍しいモンスターの調査時の護衛だった。

だが、三人に渡した素材の価値を考えるとリアス達が無事に学園まで辿り着くのか心配過ぎる。


というわけで、後日ソウスケは三人の元を訪れて報酬はいらないので学園まで護衛すると伝えた。

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