四百七十七話 まだ……終われない
「……こんなところか」
作業を終えたザハークの方からは四本の水の腕が生えていた。
「ぶっ! はっはっは!!! なるほど、その手があったか」
「無いなら作れば良い、という訳ですか。やはり見た目に反して柔軟な発想を持っていますね」
無意識にザハークをディするミレアナだが、本心ではとても褒めている。
そういった手をミレアナは全く思いつかなかった。
「あ、あのような事が……可能なのですか? アシュラコングの火力を考えれば、蒸発する場合もあると、思うのですが」
リアスの考えは間違っていない。アシュラコングはザハークの遠距離攻撃を全て炎を纏った拳で蒸発させてきた。
「普通ならそうだが……ザハークはそうならない段階まで練度を高めたんだろうな」
ソウスケがそう言い終えると、両者は再び激突する。
そしてザハークが方から生やした水の腕は……見事に蒸発せず、アシュラコングの炎を纏う剛腕と渡り合っている。
「生やした腕は……魔力操作によって動かしているのでしょうか」
「だろうな。簡単には操れないだろうが、それほどまでにザハークの技術が上がっているって事だ」
手数は同じになり、戦闘の経験数を上回っているザハークが必然的に優位になり始める。
「魔力操作……魔法を扱う者として重要なのは解っていましたが、改めて実感させられますね」
「魔力操作は接近戦でも色々と応用出来るからな。あと、並列思考のスキルを持っていると便利だぞ」
「並行詠唱を覚えることで得られるスキルの事ですか?」
「そうだ。それを持っているだけで同時に行おうとする動作が増えても脳がきっちりと処理をしてくれる。戦闘中に頭が痛くならずに済むってことだ」
同時に複数の事を行おうとすれば、通常では脳の処理が追い付かずに頭痛が発生する。
勿論それは個々によって差があるが、それでも大抵の人達はその頭痛に悩まされる。
そこで並列思考のスキルを手に入れることで脳の処理速度がアップし、同時に違う動作を行っても特に不自由が起こらなくなる。
なので、並列思考のスキル書はかなりの高額で取引されている。
「それは、凄いですね。や、やっぱりソウスケさんは魔法職より、ではないのですか?」
「いや、そんな事は無い……と思うぞ。そもそも俺が並列思考のスキルを得た切っ掛けはちょっと特殊な武器を使っていたらだ」
「特殊な武器、ですか」
「そうだ、結構特殊な武器だと思うぞ。まだ冒険者になって大した月日は経っていないけど、俺と同じ武器を使っている冒険者は見たことが無いからな」
その特殊な武器が何なのか、とても気になるカレアだがあまり踏み込んで聞き過ぎるのは良くないと思い、どんな武器なのかを尋ねるのを思い留まった。
「ザハークはそういった武器を使わずに並列思考を得た訳だ……うん、やっぱり恐ろしい学習能力だな。そろそろ戦いも終わりに近い」
六本の腕での攻撃に慣れてきたザハークにアシュラコングの攻撃は全くクリティカルヒットすることは無く、逆にザハークの攻撃は防御をすり抜けて直撃。
防御出来ている攻撃ですら、中に衝撃が響いている。
「あと……せいぜい一分ぐらいか?」
「それぐらいが限界でしょう。アシュラコングの強さは間違いなくAランクに相応しいものでした。ただ、ザハークと比べれば色々と足りない部分があります。その差を考えれば……この戦いの結末は当然と言えるでしょう」
ミレアナとソウスケは元々ザハークが負けるとは思っていなかった。
(アシュラコングが持っているスキルを視ても……こっからの逆転はあり得ないだろうな)
(追い詰められた獣は恐ろしいと言いますが……いえ、元々恐ろしい力を持っていますが、まだ他に牙を隠し持っているとは思えません)
リアス達三人の目から見てもザハークの勝利は確実に見えた。
だが……この火山に長い間住み着いていたアシュラコングにはスキルやレベルだけでは測れない隠し玉を持っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます