四百三十一話 何者か解らない

「自分はあんまり結婚とかには興味無いですね」


「あらそうなの? でも、確かに若い冒険者の子は身を固めるよりまだまだ遊びたいというイメージの方が強いものね」


歳を取れば取るほど身を固めたくなる。

だが、若い男ほど遊びたいという思いが強い。

それが悪い事だとはミリウスも思わない。寧ろ若い時ほど遊ぶべきだと思っている。


(ただ、冒険者でソウスケ君ほど遊んでる子は見たこと無さそうね)


初めて自分と会った時は初心そうな表情が見て取れた。

でも喋り続けるにつれて表情が柔らかくなり、普段通りの話せている。


(仲間の二人が強いとは言っていたけど、そんなにも強い人達なのかしら? でも、歓楽街は新人冒険者が思っているよりも危ない場所なんだから一人で来させないと思うのだけど……やっぱりソウスケ君って結構強いのかしら?)


見た目はそこまで強そうに見えない。強者の雰囲気を感じない。

ただ、ここまで遊び慣れている雰囲気を見ると、実は強いのではと思えてしまう。


「ミリウスさん、ボーラン様がご指名を……」


「あら……分かったわ」


ミリウスがチラッと視線を向けるとそこにはでっぷりとした腹を持つザ・肥満体型の男がニヤニヤと笑みを浮かべながら待っている。


「ごめんね、ソウスケ君。指名を受けてしまったの。また今度来てくれたらその時に続きを話しましょう」


ミリウスは久しぶりに若い子と話せて楽しいと感じた。

しかし他の客が指名料を払ったのならその客の元に向かって接待しなければならない。

寂しさとつまらなさ、そしてプロの思いを混ぜた目をしながらミリウスは席から立ち上がる。


だが、それはソウスケとして面白くない流れだ。


(指名料って上書き出来るのかな?)


メニュー表に目を向けると指名料は銀貨五十枚と書かれていた。


(・・・・・・は、はっはっは。やっぱり異世界はぶっ飛んでるな)


基本的にまずは日本円に考えてしまう。

銀貨五十枚は日本円にして五十万円。高級レストランのフルコースでもそこまですることは無い。


ソウスケと同じ冒険者が今の状況を見れば指名料など金の無駄遣い。

そんな事に使うなら次の仕事の準備費に、新しい武器の費用に使う。

そういった考えが浮かぶが。ソウスケにはそれらを考える必要は無い。


「お兄さん、これで上書きして貰っても良い?」


「ッ!! か、かしこまりました。少々お待ちください」


銀貨五十枚の二倍、金貨一枚をボーイに見せてミリウスの残留を伝える。


「ソウスケ君……む、無理する必要は無いのよ」


「いや、別に無理なんかしてませんよ。それにまだお酒一つしか頼んでないじゃないですか。これからまだまだ話して飲もうと思ってるんで付き合ってくださいよ」


見た目はまだまだ子供。ただ、そのミリウスには理解出来ないその余裕さに思わず頬を赤くしてしまう。


(こ、こんな子供に対して熱を感じてしまうなんて、私もまだまだね)


だが、決して悪い感覚では無かった。


「お待たせしました。お申し訳ございませんが向こうお客様が上乗せしまして」


「幾らですか?」


「き、金貨三枚です」


「そうですか。それなら金貨六枚で」


今度はテーブルの上に六枚の金貨を置く。

その瞬間、ボーイにはソウスケが何者なのか全く解らなくなっていた。

ミリウスと同じく、自分には理解出来ない余裕な表情に男としての尊敬の念すら抱く。


ただ、ミリウスの指名を入れた客もタダの客では無い。

この街を拠点に置くトップクラスの紹介の次男であり、親から貰っている小遣いは尋常では無い。

そして店も幾つか任せられているので、到底冒険者が財力で立ち向かえる相手では無い。


しかしソウスケが稼ぐ方法も冒険者らしくないもので、冒険者歴一年の者が稼ぎだす月収、年収を大きく超えている。

なのでそこからはソウスケと商人の次男、二人の意地の張り合いが始まった。


しかし金を持っているとはいえ、商人の懐にも限界はある。

そもそも、嬢の指名料に金貨何十枚も使えるほどの余裕は無い。


そして……ソウスケが金貨を三十枚払ったところで決着が着いた。

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