四百十九話 抑えられない感情

「全く、あのような小者がソウスケさんに刃向かうなど……正直、蹴り飛ばしたいです」


「まぁ、そう言うなって。あいつはまだガキなんだから……って、俺もまだまだガキなんだけどな」


ソウスケとアーガスの意見のぶつけ合いが終わった後、ザハークは再び見張りとしてテントの外で立っており、二人はテントの中へと戻った。


「アーガスはまだ俺達と同じ年で同じEランクだ。基本的には上を目指して金を稼いで……そんな事で頭が一杯なんだろう。だから俺みたいなランクに拘りの無い人間に対してイラついて仕方がないんだろう」


「……その気持ちは多少分かりますが、それでも人が決定した案に他人が口出すというのは……そもそもアーガスには一切影響のないソウスケさんの決断です」


「それは確かにそうだけどなぁ・・・・・・納得出来なかったんだろう。そもそも同じランクの筈なのに強い仲間を連れ、良い装備を身に着けている。それだけでもアーガスにとっては……いや、アーガスだけでなく他の冒険者も含めて気に入らない存在だ」


ソウスケはアーガスの気持ちが理解出来る。

自分が同じ立場に立てば同じ思いを抱くのは必然。


それが本当に解っているからこそ、ソウスケは特にアーガスを調子に乗ってるんじゃねぇーぞと、ぶっ飛ばすことは無かった。


「子供には……ルーキーには感情がそう簡単に抑えられないんだよ」


「でもソウスケは抑えられてるじゃないですか」


「いや、まぁ・・・・・・冷静でいられる時は確かにあるけどさ。でもミレアナも解ってるだろうけど、俺は普通じゃ無いんだ。だからここまでの強さを持っている。そもそもザハークも入れて三人でダンジョンに潜るとか普通なら考えられない様な事を平気でやってるんだ」


ルーキー用のダンジョンをベテランが三人で攻略するのとは訳が違い、下層はベテランの冒険者でも命の危険が常にあるような場所でソウスケ達は三人で探索を続けていた。


それは他の同業者から見れば十二分に普通ではない偉業だ。


「まだ十代なんだから、自分の感情が抑えられないのは別に珍しいことではない」


「……そうかもしれませんね。ただ、もう少し力の差を見せつけてもよろしかったのではと思いました。そうすればあの者達もソウスケさんに対して調子に乗った態度をとることも無いかと」


「はは、本当にミレアナはアーガス達の事が嫌いなんだな。……でもな、アーガスもその他の連中も皆十分に俺との力量差をもう理解しているよ」


ソウスケが今回の偵察で倒したゴブリンパラディンのランクはB。

たかがゴブリン、されどゴブリンの強者に当たるゴブリン。


その巨体と威圧感にアーガスは無謀にも挑みかかったが、ゴミを払うように一蹴されてしまった。

そんな自分達の命を容易く奪ってしまう程の実力を持つモンスターに対し、ソウスケは互角に渡り合い……見事討伐した。


それほどまでの強さを持っている者に今の自分が敵うのか?

その可能性は完全にゼロだと脳が、体が、心が認めてしまった。


なのでアーガスもソウスケが昇格のチャンスを蹴った時、突っかかりはしたがそれ以上絡もうとはしなかった。


「それに俺はあいつらと敵対したい訳でも、従えたい訳でも無い。普通に歳の近い同業者として楽しく接することが出来れば良いと思ってる」


「それは分かっています……まぁ、グラン君の様な人もいますので全員が全員生意気な同業者だとは思いませんが」


「冒険者なんて少し生意気ぐらいの方が良いはずだ。それにグランもいずれ同期からは妬まれるような存在にまで駆け上がるだろう」


グランの強さの要因を知っているソウスケはそこまで長い月日を掛けずとも、グランはランクを上げていくだろうと思っている。


そしてそれはミレアナも同じ考えであった。


「その可能性はかなり大きいでしょう。でも、彼の性格からして信用出来る仲間とは巡り合えると思いますが」


「俺もそう思うよ。それにグランの場合、全部が全部得意って訳では無いからな」


優秀過ぎればそれだけで周囲から妬まれやすい。

ソウスケの場合は接近戦、遠距離戦、魔法や武器の使用。


それら全てが一定ライン以上の技術を有している。


(そんな奴は周囲から妬まれて当然だよなぁ)


そんな当たり前の事を思いながらソウスケは再び眠りについた。

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