四百三十五話 少しおかしい

「朝飯も豪華で助かるよ」


「昨日食べた肉のあまりですけどね」


「いやいや、それでもこうして朝からガッツリ食べられるのは有難いよ」


夜が明け、一度もモンスターや盗賊からの襲撃が無かったので全員無事に朝食を食べられる。

朝飯の内容は昨日ソウスケが倒したボアにレアレス達が持ってきていた野菜を細かく刻んだもの。


普通に考えればそこまで豪華な食事では無いのだが、有り余るボアに焼肉のお陰で腹は膨れる。


飯を食べている間だけはソウスケに不満を持つ組も一心不乱に食べ続ける。


そして偵察二日目、朝食を食べ終えたソウスケ達は森の中を慎重に進んで行く。

手前の方であれば実力の高いモンスターはそこまでおらず、ソウスケ達がおらずともレアレス達だけでも対処することが出来る。


しかし、稀に強大な力を持つモンスターが気まぐれに下りてくる事もある。

そうなった場合、レアレス達三人だけならば逃げ切ることは可能かもしれないが、正直アーガス達を守りながら逃げ切るのは不可能に近い。


グランも戦力には入るが、レアレス達程戦闘経験が無いので誰かを守りながら撤退するという事に慣れていない。


「ちょっと心配そうだな、グラン」


「あ、はい。やっぱり森の奥へ奥へと進めば強いモンスターが現れるので、ソウスケさん達がいると解っていても自然と……」


グランはソウスケの実力が本物という事が解っているので、予想外なモンスターが現れても問題が無いと思っている。


それでもまだ自分がルーキーだという自覚があるグランには必然的に不安と恐怖が襲ってくる。


「……まぁ、あんまり緊張するな。いざって時に体が動かなくなるから……ミレアナ」


「はい、どうやらお客さんの様ですね」


集団に近づいてくる音を拾ったミレアナとソウスケがその方向に顔を向ける。

二人の実力を信用しているレアレス達もその方向に顔を向け、武器を構える。


それに反応してアーガス達も緊張した表情で武器を取る。


「コボルトが……ちょっと多いな。五体か」


現れたモンスターはコボルトであり、数は五体。


「「「「「ガルルルルㇽㇽ……」」」」」


涎を垂れ流し、飢えているコボルト達。

その表情には一切の怯えが無い。


(俺やミレアナにビビらないのは解かる。でもザハークは見た目が鬼人族に近いとはいってもオーガであることは変わらない。ダンジョンで生まれたモンスターなら躊躇無く襲い掛かってくるのは解るけど……一般的なコボルトが全くオーガを恐れていないってのは珍しい)


鑑定を使ってコボルト達を視たが、特に精神耐性などのスキルを有している訳でも無い、ただのコボルト。


丁度良い相手だと思ったソウスケはグランに戦ってみるように勧める。


「グラン、一体相手にしてみたらどうだ? 丁度良い感じに緊張がほぐれると思うぞ」


「……分かりました。固まった体をほぐしてきます」


ソウスケにコボルトの相手をしたらどうだと勧められたグランは躊躇うことなく一歩踏み出す。

そしてグランに戦うように勧めたソウスケは自分も戦った方が良いよなと思い、自身も前に出る。


「ざけんなッ! お前が出るなら俺も戦うぞ!!!」


「……勝手にしろ」


アーガスの参戦に特にレアレス達は咎めなかった。

アーガスがコボルトと戦うと宣言するが、結局それは一人では無く複数人での話。


それなら問題無いだろうと判断し、ミレアナとザハークと同じく他にモンスターが乱入してこない様に周囲を警戒する。


「「「「「グルルラララララッ!!!!!!!」」」」」


いつでも戦う準備は出来ているソウスケ、既にスイッチが入っているグラン、戦うと宣言はしたが心臓が高鳴っているアーガス達。


そんなものは関係無いとばかりコボルト達は襲い掛かった。

ソウスケ達がどのようにグループを分けて戦うのか即座に判断出来たコボルト達はソウスケとグランに一体ずつ、そそしてグラン達に三体。


(なんかちょっと様子がおかしい気がするが、特に変わったコボルトじゃ無い。蛇腹剣で喰う必要も無いな)


必死な形相で飛び掛かってくるコボルト。その様子はまさに獣。

しかしその攻撃に対してスピードとパワーが伴っていないため、ソウスケにとっては幾らでも攻撃方法がある隙だらけの的。


「よっと」


なので特に労力を消費する事無く、手刀から魔力の刃を放ってその首を一刀両断。

地面が足に突く前に頭と体が別れたコボルトはそのまま地面に激突。


「避けれなかったのか、そんな事を考える余裕もないぐらいに何かを食いたかったのか……良く解らないな」


特にイレギュラーが起こることなくソウスケとコボルトの一戦は終了。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る