四百十八話 背中の安心感

「一体だけだとそこまで強く無いだろ」


「そ、そうですね……迫力は、今まで戦ってきたモンスターの中でも、結構凄かったですけど」


「そりゃ俺達より大きいし、なにより体積がデカいからな」


まだ一年も経っていないが、それでも話せる範囲の内容をグランに伝える。

ただ、現在歩いている場所は街の外の森なので当然、モンスターが二人を襲う。


ランクがFやEのモンスターであればグラン一人でも余裕を持って倒せるが、相手がDランクのモンスターとなるとそう簡単には倒せない。


だが、オークが現れた時に数は一匹ということもあってソウスケはグランに一人で倒してみるように伝えた。

その言葉に戸惑うグランだが、危なくなったら助けに入ると追加で伝えられたので、振り切って全力でオークを単独で倒しに駆け出した。


二人が遭遇したオークはまだ相手の力量を完全に把握出来る程のレベルには達しておらず、余裕な表情でグランを迎え撃とうとする。


しかしグランの予想外の速さと力強さに痛手を貰い、本気になって襲い掛かろうとする。

だが、最初の一撃をモロに喰らってしまったオークは動きが鈍くなっており、グランの言う通り本気で敵を潰そうと必死だったので迫力は確かにあった。


でもグランのスピードに付いて行くことが出来ず、攻撃を徐々に貰い続けて特にグランに対してダメージを与えること無く、倒されてしまった。


「んじゃ、必要な部分だけ解体しようぜ」


「わ、分かりました」


グランがソウスケから押し切られるような形で貰った収納袋を貰ったが、それには他にもソウスケから押し切られるような形で受け取った物が入っているので、必要な部位だけを解体して中へとしまった。


「……世の中の冒険者達が何故収納袋を欲するのか本当の意味で良く解りました」


一人で行動しているグランにとって、戦いの邪魔になる荷物を背負わなくて済むという利点がどれだけ有難いものなのか、身に染みて解った。


そして何故、冒険者の役割分担の中にサポーターという役割があるのかも理解出来た。


(確かに一人でも荷物を持ったりその他の戦いにはあまり関係の無い仕事が出来る人ほど、パーティーの中で重要な人材になる)


グランの考える通り、サポーターとは本来パーティーの中でも戦闘を行う者達の負担を軽減する重要な役割を担うポジション。


しかし冒険者の大半はその重要性を軽視している。

そのお陰でサポーター達の向上心も削れ、嫌な悪循環が生まれてしまった。


「ただ、それを上げた俺が言うのもなんだけど、あんまり人前では使うなよ。本当に信頼できる仲間が出来たら目の前で使って良いかもしれないけど」


「そうですね。一緒にパーティーを組むメンバーが現れたらその時は堂々と使います。でも……それまではソウスケさんから貰った武器や道具もあまり人前では使わない方が良さそうですね」


「……そうだな。どこにでも悪い奴ってのはいるからな」


確かにグランは強い。

しかし、まだソウスケ程埒外な存在では無い。


冒険者になってそこまで期間が経っていないという事もあり、同業者に対する警戒心が高くなく、ソウスケはそこを心配している。


(俺がダンジョン内で手に入れた武器や道具はグランのレベルや実力を考えればまだちょっとなぁ……でも、今の調子で戦い続ければ直ぐに必要になる物だし)


信頼できる後衛の冒険者さえ仲間になれば問題無い。

だが、相手が何を考えて近づいてきているのかなど、心を読める魔道具やスキルが無ければ判断出来ない。


「グラン……どうやら今日は獲物が向こうからやってくる日みたいだな」


「そうみたいですね。自分が……一人でやります」


「おう、しっかりと後ろから見てるから安心してぶっ飛ばせ」


二人の目の前に現れたのはコボルトの上異種であるファイターとメイジ。

お互いに二対二の状況ではあるが、あえてグランは一人で戦うと宣言し、相手が飛び出す前に自分から駆け出した。

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