三百九十七話 無駄な徒労
「昆虫の殺戮者……なんて物騒な称号だよ。別に殺戮はしてないと思うんだけど」
「どうかしましたか?」
「ステータス欄を見ると、昆虫の殺戮者って称号が載ってた」
昆虫の殺戮者。一定以上の強さを持つモンスターを五分以内に大量に殺す事で得られる称号。
効果は昆虫系のモンスターに対する威嚇による行動停止、攻撃の威力増大。そして毒麻痺耐性の上昇。
「最後の耐性上昇について昆虫系とか関係無しの効果だからそこは嬉しいな」
「今日はソウスケさんが一番殺してましたからね。私にステータス欄には載っていませんし」
「……この昆虫系のモンスターに対する威嚇がどの程度通じるかだけは確認しておきたいな」
昆虫系のモンスターに対して特化した威嚇がどの程度のランクまで通じるのか、行動停止になる時間はどの程度なのか。
一秒もあれば戦況が変わる程の速さで動くソウスケ達冒険者にとっては是非とも確認したい内容だった。
「それにしても、本当に一日でメタルスパイダーの大群を見つけて倒し終えてしまいましたし……ギルド内は少し荒れるかもしれませんね」
「かもしれないな。でも、一番面倒な事態になるのは大量のメタルスパイダー討伐を主導したBランクの冒険者だろ」
最終的にはギルドも協力しているが、ギルドの冒険者達がメタルスパイダーやその上位種達を倒そうと決意したのは、そのBランク冒険者達の言葉がきっかけとなった。
揃えた武器や道具は今後の冒険を考えれば無駄にはならないだろう。
鉱山からメタルスパイダーが完全に消えたわけでは無い。
しかし、他のパーティーとの連帯などはそこまで使う機会は無く、無駄な時間を過ごしたと思う人物も少なからず出てくる。
「ギルドが主導するのを待っておけば良かったんだよ。そうなれば俺達がほぼほぼ全滅させたので鉱山には大した数のメタルスパイダーがいなかったとしても、一つのパーティーが責められることは無い。にも拘わらず、いらない正義感に駆られたのか知らないけど、アホな事をした」
ソウスケがクイーンメタルスパイダーを含む大群を処理したのは決して責められるものでは無く、寧ろ被害を減らしたので褒められる内容。
ただ、ソウスケ達が鉱山に向かう様子を見た者は殆どいないので、三人がクイーンメタルスパイダー達を討伐したと考える人物は今のところいない。
(さてさて、二日後のギルド内はどうなることやら。面倒に絡まれたくないから街で大人しくしてるか)
ソウスケ達は冒険者達が既にほぼほぼ討伐されてたメタルスパイダーの討伐日までの二日間、鍛冶や錬金術で時間を潰していった。
そして大量発生したと思われるメタルスパイダーの討伐してに多くの冒険者達は鉱山の中へと入っていく。
しかし探索を始めてから約三十分経過し、冒険者達は違和感を感じ始めた。
鉱山内に大量発生しているとだろうと言われていたメタルスパイダーと全く遭遇しない。
他のモンスターとは遭遇するものの、討伐すべき対象だと思っていたモンスターが見つからない。
そして探索を始めてから一時間後、ようやく一つの集団がメタルスパイダーと遭遇したが、複数では無く単体。
メタルスパイダーを倒した後も、やって来たのは血の匂いに惹かれた別のモンスターだけだった。
探せど探せどいるだろうと思っていたメタルスパイダーの大群は発見出来ない。
この事実に今回の討伐を主導したパーティーのリーダーは非常に焦っていた。
Bランクのクイーンメタルスパイダーと遭遇しないのは本人達にとって有難い事だが、自ら討伐を主導した手前、何も利益が無いのでは他の同業者から多少なりとも冷たい目で見られるかもしれないという自覚があった。
(それはそれで俺達にとって良くない状況だが、もう一つ……仮にメタルスパイダーの大群が鉱山から出ていたとしたらそれはもっと最悪な状況だ)
大量のメタルスパイダーやその上位種によって森の生態系が乱れる。
ランクの低いモンスターは即座に餌の対象になり、殺されてしまう。
モンスターが少なる事は良いことなのだが、ランクの低いルーキー達にとっては宜しく無い状況となる。
結局その日は殆ど討伐隊としての成果は得られずに、冒険者達は街へと戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます