三百九十四話 痛いイライラをぶつける

「……メタルナイトスパイダーがいなかったな」


「先にただのメタルスパイダーのみを戦わせ、こちらの実力を知ろうとしていたのでしょうか」


「だとすれば、実力不足という他無いな」


ザハークの言葉通り、いくら数が多くてもメタルスパイダーの強さではソウスケ達の実力を半分も出すことは出来ない。


手札の数や身体能力を考えれば、精々一割が良いところだろう。

パーティーの中で一番腕力のあるザハークにとってメタルスパイダーの皮膚など、大した壁では無かった。


「群れの長っていうのは強さよりも危機感知力に長けてるって聞くし、もしかしたら逃げてしまう可能性があるな」


鉱山から外への道はソウスケ達が見つけたようにギルドが管理している一つだけではなく、複数存在する。


(どこから出てしまうかなんて分からない。でも、ギルドが管理している入り口から出ないとは限らない)


そうなれば被害が街に及ぶ可能性が大。

そもそも、クイーンメタルスパイダー達が街に向かわなかったとしてもこれから先多くの人が食われ、餌になる。


(勝手に討伐する手前、そんな事態は避けないとな)


ソウスケは蛇腹剣で喰って得たスキル、嗅覚上昇を使ってこの場にいたメタルスパイダーと似たよう匂いを探す。


「ッ! ミレアナ、ザハーク、俺に付いて来い」


「分かりました!」


「了解!!」


辿る、匂いを正確に辿る。

メタルスパイダーと似た匂いがある、メタルスパイダーと同じ匂いもある。


(この匂いは似てるけど違う。この匂いは一緒……でも違う、今日の匂いじゃない)


嗅覚上昇を使う機会が殆ど無かったソウスケだが、あり得ない程の速さで使い慣らす。

しかしその影響でソウスケの鼻に多くの情報が集まり、直ぐにキャパがオーバーしそうになる。


(いッッッッッた!!!!! なんだこれ!!?? えっ、今俺鼻血出てない!?)


この痛みから速く逃げたいと思うソウスケの脚は自然と速くなる。


「ソウスケさんの速さが徐々に上がっている気がするんですが」


「そうだな。もしかしたら標的を発見したのかもしれない」


ザハークの考えと原因は全く違った。

しかし特にソウスケから血は流れていないので、二人は何故ソウスケがスピードを上げたのか正確な理由は分からなかった。


そして明らかにメタルスパイダーと似ていて、それで嫌な匂いを嗅ぎ取った。


「ッ、見つけた!!!」


もう嗅覚上昇を使う必要は無く、標的までのルートを覚えたソウスケは身体強化を使い、ギアを一気に上げる。


「……なんて無茶苦茶な走り方なんだ」


「でも、一応ソウスケさんの脚力を考えれば無茶では無いかと」


未だに少々鼻がズキズキする痛みのイライラを早く相手にぶつけたいソウスケは道を上下左右関係無しに走り、最早殆ど地面に足が付いていない状態で標的に向かっていた。


「見つけた。下っ端だけに働かすんじゃなくて、自分達もしっかり働けよ」


メタルナイトスパイダー達が反応する前に、ソウスケは間合いに侵入成功。

そして上空に幾つもの風の魔力を発生させ、形を変化させる。


「まっ、結果は戦死だけどな」


その言葉がトリガーとなり、風の魔力が変形した刃が同時に落下。


ソウスケの言葉が聞こえ、多くのメタルナイトスパイダーの意識は後方のソウスケに向いている。

自分達の命を脅かす存在には気付くことに成功。


だが、命を脅かす刃には気付くことが出来ず、気付いた時には体が真っ二つになっていた。


「仕事早すぎませんか?」


「俺達の仕事も残しておいて欲しいものだ」


「あぁーー、すまんすまん。無防備だったからついな」


メタルナイトスパイダー達が無防備だったのではなく、単にソウスケのスピードが速すぎただけの結果。

大半のメタルナイトスパイダーはその脚と糸の切れ味を発揮する事無く終わりとなった。


しかしクイーンを守るナイトが全滅した訳では無い。


「とりあえず、後ろのでっかいのは俺が逃がさないから、残ってる奴らを頼む」


「任せてください」


「少しは遊びになるか」


メタルナイトスパイダーの命を脅かす存在が風の刃から風の矢と水の斬撃へと変わった。

どちらにしろ、絶体絶命なのには変わらない。

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