三百七十六話 半分本当で半分嘘

(もう俺らがアイアンゴーレムとその亜種を倒した話が流れてるのか)


目に入れずとも、自分達に視線が向けられている事ぐらいソウスケは理解出来る。

それはミレアナも同じであり、自分に向けられる視線を鬱陶しう感じ、少々不機嫌な表情になる。

そんなミレアナの小さな変化に気付いた冒険者は即座に明後日の方向に顔を向けた。


「これ、依頼の鉱石です」


受けていた依頼の鉱石とギルドカードを受付嬢に渡し、確認を終えた受付嬢から報酬金額を受け取る。

その後は特に用が無いので帰ろうとすると、ソウスケ達の依頼完了を受理した受付嬢が二人に声を掛ける。


「あの、お二人がアイアンゴーレムを倒したという話をお聞きしたのですが、良ければ素材を売っていただけないでしょうか」


受付嬢はソウスケがアイアンゴーレムを倒したとは見た目からして信じられないが、表で二人を待っているオーガと隣に立つエルフの美女なら倒せるだろうと思っており、出来れば亜種の素材は基本的に出回ることが無いので買い取りたいと考えている。


「……あんな大きい奴持って帰れないんで置いときましたよ」


それだけ言うとソウスケは速足でギルドから去って行く。

受付嬢としてはもう少し聞きたいことがあったが、一先ず今アイアンゴーレムの亜種の素材を買い取ることは無理だと解り、その素材がまだあるかもしれないと分かっただけで十分だった。


(それにしても、あの子は何者なのでしょうか? オーガを、おそらくは亜種かもしくは希少種? を従魔にしているならランクは最低でもDに上がっていてもおかしくない筈なのに)


従魔はその主人を評価する部分に入り、それは必然的にソウスケの評価が上がることになる。

そしてミレアナも受付嬢の目からはEランク冒険者の実力には見えない。


(そんな一人と一体を従えるあの子はもしかして本当に強いのかしら?)


ソウスケの本当の実力程の強さがあるとは受付嬢も考えない。

しかしそれでも偶に現れるスーパールーキー程の実力は有るかもしれないと期待する。


ギルドから出て宿へと戻るソウスケ達。相変わらず周囲の者達からギルド内の時と同じように視線が集まるが三人は全く気にしていない。


「ソウスケさん、先程は素直に答えてしまってもよかったのですか?」


ミレアナはソウスケに先程の回答について尋ねる。

ソウスケは少し考えた後に目を細めながら答えた。


「確かに嘘を付いても良かったもしれないが、それでもアイアンゴーレムとその亜種に襲われていた奴らが不真面目なパーティーには見えなかった」


人として裏があり、腐っている者ならあの場面で何も言わずにソウスケ達の横を通り過ぎ、三人にアイアンゴーレム達を押し付けようとする。


「だから、俺がアイアンゴーレムを倒したって話は信用されずとも、ミレアナとザハークがアイアンゴーレムと亜種を倒したという話は信じる筈だ」


「……否定出来ないのが辛いところです」


ミレアナもソウスケの事を何も知らなければとてもアイアンゴーレムを単独で倒すようには思えない。


「ところでソウスケさん、あの嘘はいいのか?」


「あぁ、あの嘘か。別に良いだろ。ロックスライムやブリザードリザードがいるんだ。アイアンゴーレムの体を食べて変化するモンスターがいてもおかしく無いだろ」


「なるほど。確かにそういったモンスターは鉱山に多くいそうだな」


いくらアイアンゴーレムが堅く強くても動かなければ鉱石等を食べてしまうモンスターにとっては御馳走でしかない。


(まっ、俺にとっても良い御馳走だったけどな。あれだけのアイアンゴーレムの素材があれば当分困らないだろう。でも、メジャーな素材だけじゃあれだからもう少し変化のある鉱石が欲しいところだ)


アイテムボックスの中にはかなりの量の鉱石が溜まっているが、ソウスケからすればまだまだ本命の鉱石は足りないというのが現状だった。

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