三百六十六話 半端な行動

ザハークの圧迫感を感じさせる声にブリザードリザードは思わず反応してしまった。


ザハークが不意打ちを狙っていたとしたら声を出しながら殴りかかるのは素人丸出しの行為に見える。

しかし、ザハークはそんな事を全く考えていない。


単純にポロッと言葉が出てしまっただけ。

だがそれが功を為し、ブリザードリザードは中途半端に反応してしまった。

振り返りながら迎撃するのではなく、相手が誰なのかを確認する為後ろを振り返った。


「ふんッ!!!!!!」


水のドリルを纏ったオーガの一撃。

全力では無いが、それでも八十パーセントの力は込めていた。


「ハッ!!!!!」


その一撃だけでは流石に頭蓋骨を潰し、脳を破壊する事は不可能だった。

なのでもう一発、今度は左アッパーを顎に決め、上体を起こす。


次にミレアナが放った複数の火矢が決まり、ブリザードリザードの氷の鎧が解ける。


「ロックランスバッレト」


ミレアナが熔かした部分に合わせ、石の槍を小さくし、貫通力に力を入れた複数の槍を放つ。

放たれた石の短槍は見事に火矢で熔けた部分に命中し、氷の鎧に亀裂を走らせる。


「そぉ、らッ!!!!!!!」


石の短槍を放ったソウスケは速攻でブリザードリザードに近づき、両腕を火で纏いながら尻尾を掴み、強烈な一般背負いを決める。


背中を叩き付けられたブリザードリザードは肺の酸素が全て外に出され、呼吸が詰まる。

速く態勢を立て直さなければならない。

しかしここで一つ問題が発生した。


・・・・・・動けない。


自身の身を纏う氷の鎧が地面に突き刺さって瞬時に態勢を元に戻す事が出来ない。


「運が悪かったな、ブリザードリザード」


自身の体にどのような弱点があるのか理解していなかった。

能力の利点を理解していても弱点までは理解できていなかったブリザードリザードは目の前に迫る死に抗う。


今自分の態勢から敵を迎撃できる攻撃はブレスのみ。

息を吸い込みブレスを吐き出そうとしたが、体から一気に酸素が無くなって息が詰まった状態になった状況でそれは悪手だった。


「ゴハッ!!!???」


「? 良く解らんが、俺達の勝ちの様だな」


ザハークの水のドリルを纏った拳が喉に決まり、ブリザードリザードは三十秒もしない内に呼吸を停止した。


「上手く倒したなザハーク」


「ソウスケさんが良い態勢に投げてくれたからだ。あれは狙っていたのか?」


「いいや。偶々だ偶々。ちょっとでも動きが止まって隙が生まれれば良いなと思って投げたんだよ」


一本背負いを決まれば肺から酸素が強制的に出され、息が詰まる。

柔道の授業を受けていた時に得た知識が役に立っているなとソウスケは実感した。


「まっ、人間相手に使うにはちょっとハードルが高いと思うけどな」


「ほぼ距離をゼロに近い状態に詰めなければなりませんからね。でも、人型では無いモンスターには有効だと私は思いますよ」


「かもしれないな」


しかし人型でないモンスター相手に一本背負いを決めるにしても、予備動作のいらない攻撃方法を持つ相手には決めるのが難しい。


(理想は相手の虚を完全に突く事か。速さなら身体強化の重ね掛けに迅雷を使えば大抵は相手の反応速度を上回れるか)


唯一危惧すべき相手は反応速度と未来予知のようなスキルを持つ相手と戦うこと。

だがそこまで好条件な実力と能力を持ち合わせる者は中々いない。


「まっ、とりあえず目的の・・・・・・いや、目的以上の素材を手に入れられたんだ。結果オーライだな」


その後、ソウスケ達は一先ずブリザードリザードの血抜きを済ませてから解体を始め、それが終わるとブリザードリザードとの戦いで命を失った冒険者の遺体を燃やす。


そしてギルドカードと遺品となりそうな物だけギルドへと届けた。

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