三百五十七話 上る者がいれば、落ちる者もいる

「盗賊ってのは、本当に倒しても倒しても消えないんだな」


夕食時に襲って来た盗賊を返り討ちにし、アジトを吐かせて殴り込みに向かう。

そしてアジトに残っていた連中は獲物を狙った仲間が返り討ちにされたことを知る訳も無く、酒を飲んでいる者もいた。


そんな油断しきっている者達がソウスケの相手になることは無く、次々に狩られていく。

そして盗賊達のリーダーである男も、冷静さを取り戻して何とか逃げ出そうとするが、それも虚しくザハークの拳に貫かれる。


「上がる者もいれば、落ちる者もいるという事だろう。ただ、落ちる者の方が多いという事だ」


「なるほど、確かにそうだな。真っ当な努力をしても上がれない場合だってある」


理不尽な権力が理不尽な理由で前を向いて歩く者の道を塞ぎ、邪魔をし、道から外そうとする。

そういった行為が無くならない限り、盗賊の数が減少傾向に向かう事は無い。


「酔っていたからってのもあるけど、元々そこまで強くなかったみたいだな」


「それは俺達だから言える事だろう。一般的な冒険者なら、二人で倒せる数では無いだろう?」


「それもそうだな。もし平均的な実力を持つ冒険者が数人で盗賊団を倒せるんだったら、盗賊達もああやって酒を飲んで油断してられないだろうな。にしても、こいつを持ってるんだったらちょっとぐらい油断してしまうのかもな」


ソウスケは盗賊達が使っていた武器を一つ広い、そう呟く。


「それは何と言う武器なんだ? 俺は初めて見るんだが」


「俺も実物を見るのは初めてだ。確かクロスボウって名前だったな。初心者でも的を狙いやすい弓? 的な感じだったと思う。打つ際に力は殆ど要らないからな」


「なるほど、一定以上の速さを持たない相手ならば確かに有効な武器か」


「だな。でも俺達には無意味な武器だ」


ソウスケの速さと反射神経と感知力ならば盗賊達が持つクロスボウ程度なら躱すことは容易であり、ザハークの場合は仮に直撃しても矢先が体に刺さることはほぼほぼ無い。


「でも面白そうだから全部回収しよう」


「いつか役に立つ日が来るかもしれないからか?」


「そういう事だ」


多くの物を持つことに不自由はしないソウスケはアイテムボックスの中に次々と盗賊達が持っていた武器を仕舞う。


「う~~~ん。今度アイテムボックスの中を整理した方が良いかもしれないな」


「? アイテムボックスの中から何かを取り出す時は、自身の意志で欲しい物が取り出せるのだろう」


「ああ。でも殆ど使わない物とか、似たような物は纏めておいた方が良いかと思ってな」


「そうか・・・・・・・それなら樽などに詰めておけば良いんじゃないか?」


盗賊達が今まで奪ってきた物の中に空の樽が幾つもあったのでそれを取ろうとしたソウスケだが、樽が放つ異臭に鼻をつまむ。


「くっさ。これ、酒の匂いか?」


「元は酒樽だったみたいだな」


「飲み終わった奴をそのまま放置してたってことか。そりゃクサくもなるな」


空の樽に全てクリーンを使い、匂いと汚れを消した樽にソウスケは今までに手に入れた武器を詰め込んでいく。


「・・・・・・俺は騎士団の数や内容とかは知らないが、ソウスケさんが持っている武器や防具だけで騎士団が作れるんじゃないか?」


「はっはっは、かもしれないな」


ソウスケが持つ武器や防具の内、殆どは大した物じゃないが、ダンジョンで手に入れた武器や防具は未使用の物。

それに何かしらの効果が付与されている物が多い。


だが、貴族になるつもりは一切無いソウスケにとっては無縁な内容だった。


「さて、あまり遅くなるとミレアナが心配するかもしれないから、そろそろ戻るとするか」


盗賊が奪った品を回収し、武器や防具を纏め終えたソウスケは盗賊の死体をきっちりと燃やしてその場から去った。

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