三百十六話 息をする暇さえ

ザハークの水の大斬とソウスケが放った雷の神速の斬撃がパラデットスコーピオンの上位種の体を斬り裂き、戦いが終わる。


「ッ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・だぁーーーーー、本気で疲れた」


「た、確かに気の抜けない戦いでしたね。いつも以上に魔力消費したので疲労が、溜まりますね」


「それほどの相手、だったという事だ。数の優位で自分も含め、全員が大きな怪我をせずに済んだが、ミレアナの言う通り、疲労が半端では無いな」


表情こそいつも通りだが、ザハークは体から滝の様な汗を流していた。

それはソウスケとミレアナも同じく、普段の戦いからは考えられない程の汗を流し、息を切らしている。


戦いの時間にしては大して長くは無い。しかし密度に関しては圧倒的に三人の精神を疲労させるものだった。

ザハークが喰らった毒もレア度五の状態異常回復のポーションを使って即座に治したが、放っておけば手持ちのポーションでは治らない程の効果を持っていた。


「無呼吸運動ってやっぱり無茶苦茶辛いな」


通常の戦いの最中ならば表情が真剣なものであっても息を常にし、場合によっては深呼吸を一つ置いてから攻撃を放つ。

しかし今回の戦いでは殆ど大きく呼吸する暇が無い程内容が濃く、ソウスケにとっては初体験の戦いであった。


「息つく暇もない戦い、といったところでしょう。それにしても、いきなり上位種のボスに遭遇するとは・・・・・・ソウスケさん的には当たりか?」


「まぁ、何回も挑戦して遭遇しないって状況に比べれば当たりかな。ただ、もう少し心の準備をしてから入った方が良かったと後悔してる」


何が起こるか解らない場所なのは解っている。そして初めての最下層のボスがもしかして上位種かもしれないという事も。

だが、ソウスケは内心で九対一で上位種は来ないだろうと考えていた。

ボスが上位種と解った瞬間に切り替えは出来たが、それでも焦りが少しも無かったと聞かれればノーと答える。


「それでも、無事倒せたんで良しとしませんか?」


「・・・・・・確かにそうだな。今はボスに勝てた事を喜ぼう」


戦いが終わってからソウスケはようやく表情を緩ませた。

そしてパラデットスコーピオンの上位種の死体とプラス、斬撃により飛び散った体の一部も拾う。


「ソウスケさん、宝箱が出たぞ」


宝箱の数は三十階層のボスの時より多く、七つある。


「ははっ、これを見れただけでも息が詰まるような戦いを生き抜いた価値があるって思えるな」


宝箱の中が全て当たりと言う訳では無いが、それでも価値のある物に変わりはない。

何よりもソウスケは宝箱が冒険をした証に見える。


「この場で開けますか?」


「いや、地上に戻ってから開ける。とりあえず今日はのんびりゆっくりしたい」


やはり疲労が溜まっているソウスケとしては速くベッドにダイブしたい気分だった。


そして地上へ戻ったソウスケ達はまだ夕方前の時間だが、泊まっていた宿へと戻り夕食の前に一度休憩する事にした。


「ソウスケさん、ソウスケさん、もう七時ですよ」


「んん、ミレアナ・・・・・・もう、そんな時間か」


一休みのつもりが爆睡していた。

まだ完全に目が覚めない状態の体で食堂へ降り、夕食を取り始める。

その際にまずは自分達のメニューより先にザハークの料理を店員に頼んでから自分達の料理を考え始める。


だが、そこでソウスケは店員さんに今回だけの頼みごとをした。

ソウスケから伝えられた内容に店員は即答できず、店長へ訊きに行く。


そして返って来た返答は了承であったた。


「話が解る店長で助かった」


「確かに大きな冒険を乗り越えましたからね。三人で食事を食べるのが妥当かと」


「・・・・・・有難いが視線が突き刺さる様に集まるのは鬱陶しく感じる」


ソウスケが店員に頼んだ内容はザハークも食事の席に座れるかどうかだった。

見た目が鬼人に近いザハークだが、種族はオーガだ。

その差は周囲の冒険者達も解る。本来ならば従魔と言えど食堂に座って食事を取るのはあり得ない事だが、店長である料理長が何も言わない為、口出す者は一人もいない。

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