三百十四話 まさかまさかの

「俺達が休憩している間に一組ぐらいは来るかと思ったんだけどな」


昼食を終え、昼休憩をしている間にソウスケ達以外の冒険者はボス部屋の前に現れなかった。


「実力がある程度あるパーティーであっても最下層までたどり着くには厳しいのではないでしょうか。ダンジョンに潜る理由が最下層のボスを倒すという目標を持つパーティーばかりでは無いでしょうし」


「それもそうか。単に実力があってある程度稼げれば良いって考えを持っているパーティーなら三十階層に転移して三十一階層か三十二階層辺りでモンスターを狩っていれば良い話だからな」


ソウスケとしては是非最下層のボスを一度は蛇腹剣に喰わらせておきたいので、素材や魔石も欲しいと思っているソウスケは二回は挑むつもりでいる。


「自分はそういった考えはつまらないと感じるが、それでも前回の様にダンジョンではイレギュラーが発生する。ダンジョンで生計を立てている者にとっては安全がある程度確保できている方が良いのだろう」


ザハークとしては強くなる為にも刺激的な戦いを欲している。

そしてソウスケやミレアナの様に自分も何か趣味と呼べるものが欲しいと思い、鍛冶をしてみたいと思った。

そんな自分の人生を多岐に渡って楽しみたいと思うザハークにとって安定を求める行動はあまり理解出来ない。


「いつ死ぬか解らない職業だからな。ある程度稼げるようになったら無理する必要は無いと感じる人が殆どだろう。俺はそんなつもりないけどな」


まだまだこの世界を楽しみ足らないと欲が溢れるソウスケの眼がザハークには頼もしく映る。


「さて、挑むとするか」


扉に手を掛け、巨大なドアを開く。

そこには緑色の巨大な蠍・・・・・・では無く、赤色の巨大な蠍がいた。


それを見た瞬間、先程までボスとの戦いを楽しみにしている様な顔から一変、戦意に満ちた顔へと変わる。


「上位種だ!! 様子見する必要は無い!!! 全力で潰せぇぇえええエエエエエエーーーーーーッ!!!!」


複数で挑まなければ生存率が下がる。

ジーラス達から言われた言葉を思い出し、ソウスケは左手に通常状態の蛇腹剣を持ち、右手にバアゼブレイヤの片方を持つ。

そして身体強化を二重に発動する。


ザハークは身体強化の発動は勿論、腕力強化の上位スキルである剛腕と脚力強化の上位スキルである疾風を発動する。

疾風に関してはまだ発現してから日が浅いが、それでも脚力強化より有力なスキルに変わりはない。

そしてウォータランスを発動し、それを両腕に装着して更に回転を加える。


ミレアナも身体強化に加え、ウィンドアクセルを発動して基本的に遠距離に努めるが、万が一の時に即座に回避できるように備える。

そして空中には風矢だけでは無く、氷矢も展開されており、ミレアナが構える風矢に関しては唯の風矢ではない。


完全な臨戦態勢の侵入者に深い赤色の皮膚を持つ深赤の蠍、パラデットスコーピオンの上位種も身の危険を感じて何時でも技を放てる状態に構える。


パラデットスコーピオンの上位種がアクションを起こそうとした瞬間には既にソウスケが迫っており、風刃を放っていた。

それを横に避けて躱すパラデットスコーピオンの上位種だが、直ぐ様今度は風矢が迫る。


降りかかる風矢を鬱陶しく感じたパラデットスコーピオンの上位種はそれを通常種は二本なのだが、四の尻尾で全て弾き飛ばす。

だが直ぐに次の攻撃を察知し、左腕を横に大きく振り回す。

触肢と呼ばれるハサミの様な左腕には勿論毒が付いている。


「フンッ!!!!」


だがカウンターの警戒を怠っていなかったザハークは急ブレーキを掛けてそれを躱す。

完全に無理矢理動きを止めた為、ザハークの脚は地面にめり込んでいた。

そして毒付きの左腕を警戒するザハークは右腕の纏っているウォーターランスを正拳突きの勢いで放つ。


だがパラデットスコーピオンの上位種の反射神経も負けておらず、もう一度左腕を振り回して回避しようとするが、ウォーターランスの威力に負けて左腕の大半の部分が弾け飛ぶ。


最初のクリーンヒットはソウスケ側が決まった。

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