二百七十八話表情が違う

休日をゆっくりと過ごしたソウスケ達はまた適度にギルドの依頼を受ける為にクエストボードを眺めていた。


「・・・・・・あっ、こいつなら上層の中でも狩りやすいな」


常時依頼で張り出されているホーンラビット五体の討伐依頼書を取り、受付嬢のところへ向かう。


「これ、お願いします」


「かしこまりました、ギルドカードをお預かりますね」


ソウスケとミレアナのギルドカードを預かった受付嬢は何かに気付き、ギルドカードの確認を始める。


「・・・・・・えっとですね。お二人はEランクへの昇格条件を満たしているので今この場でEランクへと昇格出来ますがどう致しますか?」


今までの経験から受付嬢は冒険者達がランクの昇格を断る事は無いだろうと思っていたが、一応ソウスケ達に昇格するか否かを尋ねた。


しかしソウスケの表情は今までの冒険者とは違う。


どんな冒険者であっても昇格できると分った時は少なからず表情に喜びが現れる。


(この子ぐらいの年齢の子が昇格できると分れば皆喜ぶのだけれど・・・・・・なんで迷うのかしら?)


冒険者として上を目指すならランクアップは必須。

ソウスケと同じぐらいの年齢の冒険者も多く見て来た受付嬢だが、ランクアップ出来ると分って嬉しそうにしない者はいなかった。


「・・・・・・分りました。ランクアップをお願いします。あと、この依頼を受けるので」


「かしこまりました。ホーンラビット五体の討伐依頼ですね。ソウスケさんの実績から大丈夫だとは思いますが、油断なさらない様に気を付けてください」


ソウスケがこの街に来てから受けた依頼を受付嬢は把握している。

それが一緒にパーティーを組んでいるエルフの力なのか、それとも従魔であるオーガの力なのか、はたまたソウスケの確かな力で依頼を達成したのかは解らない。


なのでソウスケが解っているかもしれないが、念を押すように油断はしないでくれと伝える。


「分りました。それでは」


用事が済んだソウスケはミレアナとザハークが待つ表へと向かう。


「・・・・・・ソウスケ君の実力はあまり解らないけど、ミレアナさんと表にいるオーガの実力を考えればもっと速いペースでランクを上げる事が出来ると思うのだけれどねぇ」


ある程度の数の冒険者を今まで見て来た受付嬢は、ミレアナがある程度ランクが高い冒険者と雰囲気が似ている為、実力に関しては今のランクに完全に収まらないと思っている。

オーガのザハークに関しても、この街に従魔を連れている冒険者が他にいない訳では無いが、それでも初めてザハークを見た時は後退りしておもわず転びそうになってしまった。

生のモンスターということもあって、通常のオーガと比べて体は小さいがそれでも迫力がある事に変わりは無く、それが実力を示していると感じる。


「どうしたんですか先輩。将来有望そうな冒険者でもいたんですか?」


「そうね・・・・・・というか、既に有望な筈」


「えっ、先輩がそんな事を言うって事は相当実力があるって事ですね。一体どんな冒険者なんですか」


普段そこまで冒険者を褒めない先輩受付嬢が一言、有望だと言いきった冒険者を後輩受付嬢は直ぐに気になった。


「あなたも知ってる筈よ。美人なエルフの冒険者と一緒にパーティーを組んでいてオーガの従魔をつれている男の子の冒険者よ」


「あ~~~~! あの男の子ですね。男の実力はいまいち分らないですけど、エルフの美人さんと従魔のオーガは強そうですもんね。でも、ランクが高い訳でも無くたくさん依頼を受けてるって訳じゃないですよね」


「それが少し異常なのよ」


「ど、どういう事ですか?」


後輩受付嬢は先輩受付嬢が男の子を異常だという意味が解らなかった。


「冒険者になったばかりなら日々の生活費や今持っている武器よりレア度が高い武器を買おうと必死になって依頼を受ける。でもあの子にはその必死さが無い。常に余裕が有り、日々を楽しんでいる感じね。それに身に付けている装備もあの子のランクを考えれば異常よ」


「そうなんですか? 確かに身に付けているローブは結構上等な物に見えますけど」


「その考えで間違いない。あと、持っている剣も見た目は普通だけれど、ルーキーが持つような物では無いのよ。あの子がこの街に来てからの依頼を受ける間隔と以来の報酬額を考えれば良い暮らしは取りあえず出来ない。なのにあの余裕そうな表情・・・・・・とりあえず日々の生活に関しては困らない程お金を持っているはずよ」


「・・・・・・もしかし貴族の子息とか?」


「可能性としては無くは無い気がするけど・・・・・・少し微妙ね」


もしかして貴族の子息かもしれない、そう思われはするが実際にはそんな雰囲気が全くしないソウスケだった。

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