二百七十一話その気持ちは解らなくもない

(・・・・・・中々の大きさですね。おそらく固さも通常の木魔法と比べて上がっているはずです。ですが、だからこそ試してみる場面でしょう)


我前に迫る木球に対して理不尽ミレアナは素手で対処しようと、呼吸を一つ整えて構える。

対処方法は素手による木球の方向転換。

木球の軌道を変えるつもりだった。


しかしミレアナは木球があと七メートル程で自分にぶつかるという距離で違和感を感じる。


(・・・・・・可笑しいですね。木球の速度が遅い)


一般的な冒険者にとってはミレアナに迫る木球も十分に速い。


しかしそれでもミレアナは違和感を感じずにはいられなかった。


「ッ、なるほど! 猿真似という訳ですか」


木球の後方から感じた風の魔力からフォレストモンキーの考えが読めたミレアナは背から弓を取り、矢を装填しながら木球の軌道から逃げる。


木球はミレアナの読み通り後方からの突風により加速。

ミレアナの判断が遅れていたら確実に当たっていただろう。


だが猿真似はまだ続き、木球の体積が小さくなると共に、ミレアナがいる方向の表面から幾つもの木槍に姿を変えていく。

そして再度方向転換してミレアナに迫る。


「読み合いはどうやら私の勝ちの様ですね」


木球から木槍に姿を変え、突風の加速を得て突き刺そうとする攻撃に対して、ミレアナも装填していた風の矢を放つ。

今回放たれた矢は途中で拡散する様なタイプの矢では無く、単純にサイズの大きい矢。


木球のままならば中心に大きな穴を上げる程度のサイズだが、木槍へと姿を変えた事で攻撃の面積が面から点へと変わった事で小さくなった。

そのお陰でミレアナが放った風の矢は上位種の攻撃を全て飲み込んだ。


そして風の矢は木槍を飲み込んだだけでは終わらず、弧を描いて二体のフォレストモンキーの上位種に突っ込む。

もちろんこの攻撃に対して二体は避けようとするが、体の中にある魔力をすべて使った反動で動きが鈍くなっており、一体は呆気なく左肩から左胸にかけて削られてしまう。


最後の一体はもう一度風の矢が自身の方向へ向かって来るのではないかと思い、風の矢が通った方向へ向けるがそこには何もなかった。

変わりに後ろから何かが過るような音がした。


だがフォレストモンキーの上位種がそれに気が付いた時は既に視界が反転しており、最後は少しづつ視界が暗くなっていく。


「もしかしたらという気持ちは解らなくもありませんが、戦いの最中に背を向けるのは愚の骨頂です。さて・・・・・・どうやら私が一番最初に終わってしまったようですね。ただ、ソウスケさんとザハークの戦いに援護は必要なさそうなのでフォレストモンキーの上位種の死体を一か所に集めて魔石だけでも取り除いておきましょうか」


魔力を使って生み出した水で血を洗い流したミレアナは七つの死体を一か所に集め始める。




ザハークとグラップラーフォレストコングの戦いが始まってから二分。

未だに二人は肉弾戦を続けていた。


一見戦いは互角に見えるかもしれないが、ザハークが素の状態に対してグラップラーフォレストコングは身体強化のスキルを使用していた。

この時点でザハークの素の身体能力の高さが解る。


それでも現時点ではお互いに目立った傷もあらず、身体能力のスキル以外は使用されていないのでお互いの本領は発揮されていないと言えるだろう。


「・・・・・・うむ、大体分かった」


一言ザハークが呟いた後、グラップラーフォレストコングの腹部に痛烈な打撃が見舞われる。

その一撃に吹っ飛ばされこそすれど、手を地面に着く事無く着地した。


「打撃に関して多少なりともソウスケさんから教えられた技が実戦で扱う事が出来た。このまま身体強化のスキルを使えばおそらくお前が木や風の魔法を使うと勝つ事が出来るだろう。しかしそれではつまらない。少し趣向を変えよう」


ザハークが右手を前に差し出すと、周囲に水の大刃が生み出された。

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