百六十三話油断大敵

コボルトファイターは風の槍が自分の腕を貫通した瞬間に、無理やり軌道をずらそうとした。

そうすれば腕は駄目になるかもしれないが、軌道を逸らすことで心臓を貫かれる事は無い。


「だから、何をしても無駄ですよ」


またしても風の槍を放ったハイ・エルフはが・・・・・・悪女が微笑む。

ミレアナが指を前に動かすと風の槍がもう一段階速さが上がる。


完全に虚を突かれたコボルトファイターは風の槍の軌道を逸らす事は出来ず、両腕ごと貫かれてしまう。

ここでコボルトファイターの体は地面に沈む。


ただ、二体の上位種は仲間が討たれたからといって今更動揺はしない。

同族の死体に敵から目を晒す様な愚行は犯さない。


ミレアナに背を向ける形になっていたコボルトジェネラルは体を回転させ、後ろ振り向くと同時に斜め上から対角線上に蹴りを放つ。

その蹴りをミレアナは左に跳ぶ事で回避し、コボルトジェネラルの足を観察する。


(・・・・・・魔力は纏われている。でも、手と同じく雷の魔力ではない。属性魔力を纏えるのは手だけ・・・・・・もしくは足にも纏えるけど魔力の消費を抑える為に敢えて雷の魔力ではない。後・・・・・・)


考える限り予測した内の一つを破棄し、二つに絞った。


(一番目ならまだそこまでやり辛くはありません。ただ、二番目が出来るとなれば時間は短くても確かに切り札と呼べる物です、ねっ!!!)


コボルトジェネラルの可変蹴りを躱したミレアナにコボルトウォーリア―の大剣が迫る。

横薙ぎに放たれるパワースラッシュをミレアナは上体を逸らして躱す。


そして大剣の面が丁度自身の目の前を通り過ぎる瞬間にミレアナは右手の掌に風の渦を造って掌底を放つ。


ジャストなタイミングで風の渦付き掌底をを喰らった大剣は大きく弾かれ、持ち手のコボルトも大剣を手放さない様に柄を必死に握る。

自身の最大の武器を手放さない、それは悪い判断では無い。

ただ、今回に限っては良い判断とは言えなかった。


コボルトウォーリア―は大剣の柄を離さないように握りしめているため、自然と腕は上に引き上げられる。その結果コボルトウォーリア―の正面には障害が無い。

ミレアナは左手に持ちミスリルの短剣に風を纏わせてチャンスを逃すまいと、心臓に目掛けて

突きを放つ。


これでコボルトウォーリア―を殺して残りはコボルトジェネラルだけ、ミレアナはそう思いながら動いていた。


しかし自分の懐に風の突きが迫っている中、コボルトウォーリア―は非常にクレバーな状態であり、唯で殺られるつもりは無かった。


「なぁっ!!??」


コボルトウォーリア―の行動に対して予想外だったミレアナは驚きの声を上げ、先程浮かべていた悪女の様な笑みは無く、代わりに中々見る事が出来ないであろう程の驚きの表情になっていた。


大剣が後ろに逸れる反動を使ってコボルトウォーリア―は大剣は離さない様にしたまま体を後ろに逸らし、心臓を狙って来るミレアナにドロップキックをかまそうとする。


(連携は出来ても基本的には脳筋だと思っていましたが、実に冷静じゃないですか)


心底驚いた・・・・・・変な声も出てしまった。だが、思考が、体が硬直するのは一瞬だけ。

即座に落ち着いて攻撃にどう対処するかを考える。


(このまま行けば完全に顔に直撃。それは色々と嫌ですね・・・・・・特に女として)


考えが纏まったミレアナは右手の掌と両の裏に風の魔力を溜める。

完全に攻撃を回避するには魔力を溜める時間が足りない。


なのでミレアナは攻撃を躱しつつ攻める準備をすることに決めた。

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