百三十九話おそらく一度限りの

セーレから提案された商人の護衛を受けたソウスケは他の一緒に依頼を受けるパーティーの中に、Fランクの昇格試験の時に試験官を務めたブライドとリーナがいると聞いて少し安心していた。


しっかりとした常識人であろう二人がいると分かったソウスケは、セーレにブライドとリーナに自分が目立ちたくないと考えている事を伝えて貰うように頼んだ。


その願いをセーレは二つ返事で聞き入れ、依頼を受ける一日前に顔合わせをする日までに必ず伝えるとソウスケに約束した。


少しだけ依頼当日の不安要素を減らす事が出来たソウスケは、少し上機嫌になりながらギルドから出て目的の場所に向かった。


「それにしてもトレントの木、ですか・・・・・・トレントの木は確かに防具を造る材料になりますけど、ソウスケさんが欲しがる理由とは違う気がしますね。もっとこう・・・・・・斜め上を行くような理由のような・・・・・・考えても思い付かなさそうなので仕事を再開させましょう」


考え込んでボーっとしてしまう前に仕事を再開したセーレだが、その考えはあながち間違えではなかった。


ギルドを出てから目的の場所に向かっているソウスケに、ミレアナは不安を含む声で商人の護衛の依頼について尋ねた。


「ソウスケさん、本当にウドモーキまでの護衛依頼を受けて良かったんですか? 確かに必要な経験だとは思いますけど、何もFランクの時に入る必要は無いと思います」


ソウスケの奴隷であるミレアナは目立ちたくないソウスケにとって、他人に見られたら目立ってしまう力や道具を多く持っている事を十二分に理解していた。


なので護衛依頼は何事もなく終わるとは思えなかった。


「まぁ、確かに今の時期に受ける必要は無いかもしれないけど、いずれ必要な経験ではあるんだろ。街の外に出れば何時他の冒険者と行動するなんて分からないからな、今のうちにその時にどういった行動を取ればいいか分かっていた方が後々になって選択を失敗する事が無くなる筈だ」


「・・・・・・まぁ、ソウスケさんが受けると決めたのなら私はこれ以上何も言いません。それに昇格試験の時の試験官だったお二人がいるのなら、ある程度は安心できそうです。もう一組のパーティーが少し気になりますが」


ブライドとリーナと同じパーティーのメンバーなら二人と同じように常識を持っている人物だと思ったが、もう一組のパーティーの素性が全く分からない所がミレアナにとって不安要素だった。


「・・・・・・もう一組のパーティーが絡んで来た時の対策は一応考えてあるんだ」


「随分と対策を思い付くのが速いですね。それはかなり有効な対策ですか?」


ソウスケが思い付いた自分達に絡んでくる冒険者の対策は常時使える物でないが、今回の依頼に限って言えばかなり有効な手段だとソウスケは断言出来た。


「あぁ・・・・・・良い対策方法だ。まぁ、今回限りしか使えないと思うけどな。それでも効果は絶大な筈だ」


「・・・・・・そうですか。ところで笑みが少し悪い感じになっていますけど、それは何故ですか?」


ソウスケの言う効果が絶大の対策方法の内容は分からないが、ソウスケの表情から絡んで来た相手が大きな痛手、カウンターを喰らう事だけは予測出来た。


「う~~~ん、とりあえず俺の予想通りにいけばこの街で冒険者活動がやりにくくなるだろうな」


「・・・・・・・・・・・・それは冒険者にとって効果が絶大どころか、致命傷な気がしますが」


ミレアナの表現は正しく、素行の悪い冒険者は拠点としているギルドだけでなく、周辺の街まで情報が行き渡っている。


なのでもし犯罪行為ギリギリ、グレーゾーンに触れる行動をとった場合、余程拠点としていた街から離れた場所に行かなければ冒険者活動を続ける事が難しくなる。


悪い噂プラス証言が上がればギルドのブラックリストに名前が載り、何か事件があった時に少しでも関係があった場合、犯人でなくてもマークされる。


それほどまでにソウスケは今回の依頼にとって、大きな一手を思い付いていた。

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