百二十三話ある程度速くても、質量が無かったらな

二人が巣に近づいて行くと、スナイプビーの巣からざっと四十程のスナイプビーが姿を現した。


「・・・・・・絶対に俺達の方に向かって来てるよな」


「そうですね。確実に向かって来ています」


自分達に向かって来るスナイプビーの大群を見て、ソウスケは日本で同じ状況に遭遇したら失禁ものだなと思いながら、ついさっき思いついた技の準備を始めた。


「ミレアナ、クイーンスナイプビーは俺が戦うから姿を見せたら後のスナイプビーは頼むぞ。針とか素材はそこまで気にしなくても良いけど、魔石だけは余り潰さない様に戦ってくれ」


「分かりました。クイーンスナイプビーが出て来た時に、スナイプビー達が戦いの邪魔をしない様に倒せずとも注意を引くようにします」


まだ目の前にいるスナイプビー達が全てではないと分かっているため、ミレアナは絶対に戦いの邪魔はさせないとは言い切らなかった。


(苦戦する様なモンスターではないですけど、ああも数が多いと一撃一撃で完全に息の根を止める事は難しそうですね)


思考は若干ネガティブだが、心は既に殺る気モードに入っているミレアナは右手にミスリルの短剣を持ち、左手には圧縮した風の魔力を準備していた。


「それじゃ・・・・・・行くか」


準備が整った二人はターゲットを見据え、スナイプビーの群れに攻め込んだ。


自分達に挑んで来た人間に対し、スナイプビー達は早速尻に付いている毒付きの針を二人に目掛けて飛ばした。

針が発射されたタイミングはバラバラなため、全てを避けるという選択肢は相当な速さと反射神経が無ければ出来ず、ガードするか弾くという選択肢しか残っていない。


スナイプビー達はいつも大勢の仲間達と針を一斉に発射する事でモンスターや人間を倒してきた。大抵は一度目の攻撃でいくつかの針が刺さるが、偶に全て防がれる事もある。

だが直ぐに第二撃を放つ事が出来るため、対峙する相手を間違えなければ負ける事は無いと楽観視していた。


「さて、結果はどうなるんだろうな」


一人の人間の表情を見てスナイプビー達は違和感を覚えた。自分達の針に向かって突っ込んできている人間が口端を吊り上げ、ニヤニヤとしながら笑っていた。

今まで自分達の攻撃に備える、防ごうとする人間達の表情は怯える、険しい、覚悟を決めた。そういった表情ばかりで、笑っている顔なんて見た事が無かった。


そう思っている内に自分達が放った針が人間へ後、数十センチというところまで迫っていた。

スナイプビー達はこの攻撃が決まれば自分達の勝ちはほぼ決まると確信していた。


しかし、スナイプビー達の針は人間に傷を付ける事なく見えない壁に弾かれた。

今までに見た事が無い光景に、スナイプビー達は表情こそ虫故に変わらないものの、大きく動揺していた。


「うん、上手い具合に成功したな。名前は・・・・・・ウィンドスケイルメイル・・・・・・いや、別に鎧って言えるほど大した魔法でもないよな。そうだなぁ・・・・・・精々カーテンってところかな」


相変わらず自分で命名のセンスが無いなと思いながらも、性能は問題ないと分かったソウスケは直ぐに攻撃に移った。


「お前らの大将に・・・・・・違うな。女将さんに早く出てきて欲しいから、ちゃちゃっと行かせて貰うぞ」


飛竜の双剣を取り出したソウスケは刃の部分に風の魔力を纏わせ・・・・・・風の刃を乱射し始めた。

ミレアナに伝えた通り、ソウスケ自身も魔石を破壊しない様に気を付けながら風の刃を主に頭部目掛けて放ち、次々にスナイプビー達を地面に落としていった。


なるべく狙いがずれない様に少し距離を詰めてから攻撃しているため、自分達以上のスピードで動いている為、もう一度針を発射して攻撃しようとしているスナイプビーは狙いを定められず、その場からソウスケを目で追うばかりで動けずにいた。


姿が見えていても体に動けと命令する前に、我前に風の刃が迫り弾けるように散っていった。


遠距離攻撃は無理だと諦めたスナイプビーは通常の蜂と比べ、発達した大顎でソウスケに食らい付こうとするがそう上手くいく事無く上下左右からの蹴りで腹部や頭部に穴を開けられ、ざっくりと千切られて機能を完全に失った。


中には腹部の針が体から千切れ、離れていたのにも関わらず放たれた事に多少は驚いたが、速さが変わる訳では無いためソウスケは難なく躱し殲滅し続けていた。


自分達の攻撃が一切通らない、そんな恐怖を初めて味わうスナイプビー達は、まだ十五歳で大人と呼べるか微妙な容姿をしているソウスケが、自分達に死を告げる悪魔に見えた。

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