百十三話扉を閉められる=逃げられない・・・・・・的な?

「……とりあえず待っていたら良いんだよな?」


「そ、そうですね。受付の女性の反応からしてソウスケさんの事は事前に伝わっているみたいなので、おそらく大丈夫だと思います」


ミレアナと同じくソウスケは自分が商人ギルドに来た理由が、事前に商人ギルドに伝わっているのは理解が出来、安心した。

だが、先程の受付の女性の慌てぶりのせいで、自分が目立っていないかが心配だった。


(周囲の声の音量はそこまで変わっていないけど、明らかにさっきまでと比べて自分に向いている視線が多くなっているな。冒険者と違って商人は基本的に冷静だろうから、安易に絡んでこないとは思う・・・・・・思いたいけどな)


商人とはあまり喧嘩はしたくないと思っているため、ソウスケとしては面倒事は避けたかった。


「何というか・・・・・・体や顔を物色されるような視線とはまた違う嫌な視線を感じます」


「前半の感覚はいまいち分からないけど、後半には同意する。人によって違うかもしれないが、俺的には鳥肌が立つほど嫌な視線だ」


感じる者によれば自分が他人から興味を持たれている、警戒されているといった視線を受けて、誇らしく感じる者もいるかもしれないが、ソウスケとしては慣れず嫌な視線なため直ぐにこの場から離れたかった。


二人が待ち始めてから三分程が経ち、ようやく受付の女性が戻って来た。


「はぁ、はぁ、はぁ。す、すみません。お待たせしました。あの、ここで話すのは人が多いので場所を移動してもよろしいでしょうか」


「わ、分かりました」


ソウスケはセルガ―からの頼みを叶えなければいけないので、ノーとは答えず女性の後ろへ付いて行った。


女性に案内されている途中、ソウスケは女性に自分が誰に会うのかと尋ねた。


「あの・・・・・・俺はこれから誰かと会うんですか?」


「はい。ソウスケさんには私どもの商人ギルドのギルドマスターに会って貰います」


受付の女性からの返答にソウスケは驚きのあまり足を止めてしまった。ミレアナはソウスケが作ったオセロとチェスの凄さが分かっていた為、こうなる事をある程度予測していたが、本当にソウスケが商人ギルドのギルドマスターと会うとなると、驚きで目を見開き体がピシっと固まってしまった。


「・・・・・・? あの、お二人とも立ち止まってどうかしましたか?」


自分の後ろから足音が聞こえなくなった受付の女性は直ぐに不審に思い、後ろを向いた。

そこには固まってその場で立ち止まっているソウスケとミレアナがいた。


「い、いや。あまりにも会う人物がお偉いさんだなと思って・・・・・・な?」


「そ、そうですね。ソウスケさんと同意見です」


ハハハ・・・・・・と苦笑いしながら二人は再び歩き始めた。

二人の反応に女性は分からなくもなかったので、その気持ち分かりますよと同情の表情を浮かべており、自分ならそのまま気を失っても可笑しくはないと思っていた。


そして目的の部屋の前に着くと女性は扉をノックし、ギルドマスターに声を掛けた。


「マーカスさん、ソウスケさんとそのお仲間の方をお連れしました」


「分かりました。部屋の中へ入れてください」


商人ギルドのギルドマスター・・・・・・マーカスから部屋の中に入る許可を貰った女性は、扉を開けて二人に中へ入る様に促した。


「し、失礼します」


「・・・・・・」


ソウスケは緊張した表情を隠す事が出来ず、ミレアナは内心では緊張しながらも顔はポーカーフェイスで部屋の中へと入った。

そして二人が部屋の中へ入ったのを確認した女性は、失礼しましたと一言述べ、一礼してから外へ出て扉を閉めた。


扉が閉まる音を聞いたソウスケは、さながら得体のしれないモンスターのボスがいる部屋に閉じ込められた心境だった。


(・・・・・・部屋の感じはセルガーさんと比べて机や椅子等の品質がワンランク高い気がするな。それで肝心のギルドマスターさんは、人の良さそうな顔をした初老の爺さんってところだけど、実際のところは腹黒いんだろうな)


前世で経営学などを一切学んだ事が無いソウスケだが、商人には全員一つだけ共通している事があると思っている。それは腹黒さだった。最初の気持ちがどうであれ、最終的に商人は全員が腹黒になっているというのがソウスケの持論だった。


「良く来てくれました。私がこの街の商人ギルドのギルドマスター、マーカスです」


筆を置いたマーカスは優しい表情で二人に話しかけた。

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