転移したらダンジョンの下層だった

九十六話Fランク昇格試験スタート

ブライドとリーナの後に付いて行く途中、ソウスケは気になっていた事をミレアナに尋ねた。

「なぁ、ミレアナ。お前は人を殺した事があるのか？」

ブライドが盗賊との戦闘に関しての話をした時、ミレアナの表情はソウスケを含めた受検者と違い、普段と変わらない物だった。

その事がソウスケはずっと気になっていた。

「はい。私達の容姿や能力を目的として襲い掛かって来た者達を倒すために殺した事があります」

ミレアナの答えにソウスケはやっぱりかと思った。

(そりゃ、あんな話を聞いて一切顔色や表情を変えない訳だ。そうか、ミレアナは人を殺した事があるのか・・・・・・)

ミレアナが人を殺したからといって、ソウスケはミレアナに接する態度を変えるつもりは全くないが、代わりにもし対峙した相手を殺さなければならない場面に遭遇した時にミレアナに迷惑を掛けないかがソウスケは心配だった。

(特にミレアナは人を殺した事に対してトラウマみたいな物は無さそうだし、本当に覚悟を決めておかないとな)

試験とはほぼ関係が無いがソウスケの顔は引き締まったものになった。

「・・・・・・ソウスケさんは人を殺した事が無いんですか？」

「ああ、まだないな。だけど安心しろ。そういった場面に遭遇しても取り乱さない様に覚悟は決めているからな」

心配さそうにソウスケにミレアナは声を掛けたが、ソウスケの頼れる言葉を聞いて普段の明るい表情に戻っていた。

「ふふふ。頼りにしてますね、ソウスケさん」

「・・・・・・頼りにするのは良いけど、子ども扱いはするなよ」

ミレアナ自身はソウスケを子供扱いしたつもりは無いがソウスケはそう感じてしまい、ミレアナから顔を晒して呟いた。

そして後方から感じる殺気に近い物をソウスケは感じ取り、顔にはめんどくさいという表情が全く隠さずに出ていた。

(この殺気に近い物はレイガって奴の物だろうな。他の奴らからは精々嫉妬程度の視線しか感じないからな。まぁ、あんな男にとって不名誉なあだ名・・・・・・二つ名を付けたのはほんの少しだけ悪かったと思うが、先にちょっかいかけて来たのは向こうだからな。まぁ、昇格試験が終わった後に決闘だって言われたら、それぐらいは受けてやるか。勿論挑発はしまくるけどな)

可能性として無くはない未来を考えているソウスケの口端は、自然と吊り上がっていた。

隣からソウスケの表情を見たミレアナはおそらくソウスケが悪い事を考えているんだろうと思い、表情が苦笑いになっていた。

そして訓練場に始めて来たソウスケはその広さに、ポーカーフェイスを忘れて驚いていた。

(・・・・・・マジで広いな。高校の校庭の二点五倍ぐらいはあるんじゃないのか？　確かに総合的な面積はかなり広いと思っていたけど、こんなに広いとはちょっと予想外だな)

冒険者ギルドの外にある高い塀があるとソウスケは知っていたが、普段は特に気にしていなかったので、その塀は訓練場を囲む塀だったとは全くもって知らなかった。

そんな訓練場の広さに驚いているソウスケにを、レイガはすかさず挑発した。

「はっ、ギルドの訓練場に来るのが初めてとかどれだけ無知なんだよ。ルーキーっていうより殻も破れていない卵だな！！」

とても勝気な表情でレイガはソウスケの事をバカにするが、レイガの頭の中からソウスケが自分より圧倒的な速さでFランクへの昇格試験を受けるという事を、完全に忘れていた。

そんなレイガの挑発を聞いたソウスケは中々の鳥頭だなと思い、直ぐに挑発し返した。

「まだ冒険者になって一週間程度なんだから知らなくても可笑しくはないだろ、いまだに常識が身に付いていない鳥頭非常識童貞ルーキー」

童貞ルーキーに非常識と鳥頭がプラスされた事で、受検者達は先程よりも大きな声で笑い出した。

試験官のブライドとリーナも腹を抱え、膝を叩きながら笑い出した。

レイガにとって今日はFランクの試験に訓練場を使うと言う事で、あまり他の冒険者がいなかったことが救いだろウ。ただ、ソウスケ達から離れた場所に数人の冒険者達がいる事に入るので、中に聴覚を常時強化できるスキルを持っている者がいれば、不名誉な二つ名が広がるのも時間の問題だろう。

再び唐辛子の様に顔を真っ赤にしたレイガがソウスケに言い返そうとしたが、すかさずプライドが止めた。

「ほらほら、喧嘩はそこら辺で止めろ。そんなに喧嘩がしたいなら試験が終わってからにしてくれ。それじゃ、簡単に説明するぞ。まずは接近戦の奴らから俺と一対一で摸擬戦を始める。審判はリーナがやってくれ。そして・・・・・・」

間を置くとブライドは腰から自分の長剣を抜き取った。

「使う武器は木製の物ではなく、自分が何時も使っている得物を使ってもらう」

ブライドが言い終わった瞬間、受検者達の表情が一気に青くなった。

それを察したブライドが安心させるために、直ぐに保険を離した。

「安心しろ。お前らは俺に全力で掛かってきていいが、俺はお前らに寸止めしかしない。仮に俺がお前たちを傷つけてしまっても、リーナが水魔法の中にある回復系統の魔法で直してくれる。だから気負う事は無い。全力で掛かって来い」

とりあえず今回の試験で大怪我をすることが無いと分かった受検者達は安堵し、大きくため息を吐いていた。

だがソウスケは全力でやったら殺人になってしまうだろと、声に出さず心の中でブライドにツッコんだ。

「さて、俺に挑む順番は特に決めていない。手を上げて名乗り出た奴から順番に摸擬戦を行う」

ブライドが指をクイクイと動かし、受検者達を軽く蒸発した。

そしてとても短気なミスター童貞ルーキーのレイガが手を上げて名乗り出た。

「俺がやります！！！　名前はレイガです、よろしくお願いします！！！」

ミレアナに良いところを見せたいと思い、レイガは勢いよく挙手をして名乗り出た。

気合は十分だが、空回ること間違いなしとソウスケは直観的に予想した。

二人が元から引かれていたラインに立つと武器を構えてリーナの合図を待った。

「それでは・・・・・・始め！！！！！！」