九十七話完全な格上

「うおおおぉぉらあああああああ!!!!」


リーナの開始の合図と同時にレイガが自慢の手斧を右手に持ち、大声を出して気合いを入れながらブライドに向かって駆け出した。


ソウスケはいきなりブライドに向かって駆け出したレイガは何か策でもあるのかと思ったが、レイガ自身にそのような考えは無く、ブライドに向かって腕に思いっきり力を入れて大振りに斬りかかった。


そんなレイガの攻撃を見てソウスケとミレアナ以外の受験者にとって、思っていたよりスピードとパワーがある様に感じて驚いた顔をしていた。


だが、ソウスケはそんな他の受験者達とは違い、嘘だろという表情を隠さずに顔を出していた。


(あんな自信満々だった癖に、動きが遅すぎだろ。それに攻撃の仕方もそのスピードで行うなら、どうぞカウンターをしてくださいって言っているよなものだろ。まさか、そう思わせるための罠? ・・・・・・な事は無さそうだな。本当になんで全く実力が無いくせにあそこまで傲慢な態度を取れるのか、全くもって理解出来ないな)


レイガの攻撃の様子をを見ていたミレアナも、レイガがブライドからカウンターを受ける未来が容易に想像できたのか、少し苦笑いになっていた。


そしてブライドは自分に迫って来るレイガを半身になって躱し、足をかけてレイガを転ばせた。


「うわっ!!! ってぇぇ・・・・・・」


ブライドに足をかけられたレイガはいきなりの事で止まる事が出来ず、勢いよく頭から地面にぶつかった。

顔面を強打して鼻血が出たレイガはそのまま直ぐに起き上がろうとしたが、首筋に冷たい鉄が当たっているのを感じて、その場から動く事が出来なかった。

首筋に長剣の刃を当てられたレイガは明確な敗北を感じた。


「はい、これで終わりな。まぁ、ランクが三つも上の俺に気合いを入れて勢いよく突っ込んできた、その勇気は称賛するが、それだけだな。フェイントが一つもない、攻撃が大振り過ぎる、体幹が全く鍛えられていない。細かい事を言えばもっとあるが、簡単に言えば対人戦に関してはド素人。もしくはそれ以下だな」


ド素人、もしくはそれ以下と自分の力を評価されたレイガは今にもブライドに噛みつきそうな表情になっているが、ブライドに攻撃を一撃も加える事が出来ずに無様に転んで終わっただけなので、何も言い返す事が出来なかった。


「体格はその歳ににしては良い方だろうし、パワーに関しては伸びしろが多い筈だ。だが相手が完全に格上と分かっているのに考えもなしに突っ込んでくるのは、余りにも愚策だ。相手がある程度の技量を持っている場合は、瞬時にどう動くか考え判断して動けるかが重要だ。さて、次俺と摸擬戦したい奴はいるか?」


ブライドが接近戦組に尋ねるが、誰一人として先程のレイガの様に挙手する者はいなかった。

ソウスケ以外が自分が考えていたよりも圧倒的に試験官の実力が高いと感じ、萎縮してしまっていた。


ただ、ソウスケだけはそういった思いで名乗り上げないのではなく、まだブライドの速さと力を完全に把握出来ていないためブライドと昇格試験の摸擬戦を受けようとは思わなかった。


受験者達が完全に意気消沈しているのを見て、ブライドは困った顔をしながら受験者達に声を掛けた。


「おい、さっきも言った通りに別に試験の合格条件は摸擬戦で俺に勝つ事じゃないんだ。結果的に考えれば俺にFランクに上がる見込みがあると思わせるんだ。そうだな・・・・・・よし、これから一分だけ時間をやる。俺とどう戦うかを頭の中でイメージしろ。よーい、スタート」


ブライドが一分間を数え始めるとソウスケを除いた受検者達は、一斉にブライドとどう戦うか作戦を考え始めた。

遠距離戦組の受験者達もリーナにどう攻撃すれば、攻める事が出来れば見込みありになるかを必死に考え始めた。


そしてソウスケとミレアナだけは試験官と戦う時に、スキルはどこまで使って良いのか、それとも全く使わない方がいいのか、そういった事を考えていた。


そして直ぐに一分間が経ち、昇格試験の摸擬戦が再開された。



結果、ソウスケを除く近接戦の受験者達は誰一人としてブライドに攻撃を入れる事が出来なかった。

だが、中にはブライドが見込みありと判断した受験者達もおり、摸擬戦の最中に時折ブライドの口端が上がっていた。


ソウスケは自分以外の近接戦の受験者がブライドと摸擬戦を終えたのを確認してから、ようやくブライドの前にロングソードを構えて立った。

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