八十四話一緒に受けるか

メイは、もう一度同じ過ちを繰り返しそうになったが、反射的に自分の口を塞ぎ寸でのところでミレアナの種族名を周囲にばらさずに済んだ。


ちなみにソウスケも反射的に右手でメイの口を塞ごうとしていたが、メイが自分の口を自分で塞ぐのを見て途中でピタっと右手を止めた。


(あ、危なかったです。またソウスケ君に迷惑を掛けるところでした。それにしても・・・・・・まさかハイ・エルフだったとは)


メイは用紙に書かれてあるハイ・エルフという文字を見てから、ミレアナの耳を見た。

急に自分の顔を見られたミレアナは何が起こっているのかよく分かっておらず、首を傾げていた。


(確かに耳の長さが今まで見て来たエルフの方々とは違いますね。しかしハイ・エルフの方が奴隷になっているなんて随分と珍しいですね。というか、ソウスケ君もよくハイ・エルフの奴隷を買うことが出来ましたね。色々聞いてみた事がありますが、今聞くのはやめておきましょう)


一回深呼吸をして心を落ち着かせたメイは、説明を再開した。


「えっとですね。ソウスケ君は確か明日にFランクへの昇格試験があるじゃないですか」


「・・・・・・そうですね。明日がFランクへの昇格試験がある日でしたね」


ソウスケはメイに言われた内容が一瞬分からなかったが、数日前にメイから昇格の説明をされたのを思い出した。


「そこでミレアナさんも一応試験を受けられる事が出来るんですよ。勿論ミレアナさん自体に冒険者のランクが付く訳では無いんですけど、ソウスケ君が保有している戦力としてミレアナさんの力もプラスされるので、ミレアナさんが明日の昇格試験に合格すれば、ソウスケ君はFランク二人分の力を持っているという認識になるんですよ」


「なるほど・・・・・・それは僕にとってそこそこメリットがある話ですか?」


ソウスケとしては正直デメリットの方が大きい気がしたので一応確認を取っておいた。


(ギルドがミレアナの戦力まで把握するという事は、有事の際に俺達が問題を解決するメンバーに選ばれる可能性も高くなる訳だ。もしそうなってしまったら余計に目立ってしまう・・・・・・いや、これからミレアナと一緒に行動するんだから目立つ事には変わりないのか)


試験を受けるにしろ受けないにしろ、自分がこれから少なからず目立ってしまう事に変わりはないと思い、ソウスケはミレアナに昇格試験を受けてもらう事にした。


「ミレアナ落ちても別に問題は無いからお前も明日の試験受けてみろ」


「は、はい! 絶対に受かる様に頑張ります!!」


「いや、だからそんなに気張る必要は無いって」


小声で気合いが入っていれながら話すミレアナを見て可愛いな~~~とソウスケは思いながら、メイにミレアナも一緒に試験を受ける事を伝えた。


「という事でミレアナも一緒に試験を受けるんでよろしくお願いします」


「かしこまりました。それでは明日のお昼一時から試験を開始するので、十五分ほど前にはギルドに来てくださいね」


「分かりました。ミレアナ、万が一俺が明日忘れている可能性もあるからお前も覚えておいてくれ」


流石に昨日の今日で忘れる事は無いとソウスケは思っているが、念には念を入れておこうと思った。


「はい。しっかりと覚えておきます」


「よし、メイさん色々と有難うございました。それじゃ、失礼します」


用が終わりソウスケはメイに頭を下げた。

メイはそんな冒険者らしくないソウスケの行動に苦笑いしながら手を横に振った。


「私はそんなお礼を言われるような事はしていませんよ。ソウスケ君、ミレアナさん。明日の試験頑張ってくださいね」


メイからの応援の言葉に、ソウスケはもう一度メイに頭を下げた。ミレアナもソウスケに倣って頭を下げた。

そしてギルドから出て行く二人を見ながら、メイは一つ疑問に感じた事を考えた。


(ソウスケ君って、変な所で礼儀正しいのよね・・・・・・もしかして本当は貴族の子息、もしくは隠し子だったりするのかしら?)


等と全く見当違いな事をメイが考えていると、結局ソウスケとメイが何を話しているのかを聞き取れなかった受付嬢達がメイの元へやって来た。


その後メイは他の受付嬢達に質問攻めにあったが、ソウスケが知られてはマズいと思っている事は全て話さずに何とかその場をしのいだ。


ギルドを出てからソウスケは一先ずミレアナの服を買いに向かっていた。


「ソウスケさん、服を買いに終えた後はどうするんですか」


「まだ日が暮れるまで時間がある。街から出てミレアナにはモンスターと戦って貰う。お前のスキル数とレベルからして明日の昇格試験に落ちるとは思っていないけど、感を取り戻しておく事に越した事は無いだろう」


ソウスケとしてはミレアナの実力は冒険者のランクで言えばBはあると思っている。だが、奴隷店でいた期間がどれくらいなのかソウスケは知らないが、少なからず感は鈍っていると思ったので、今日の内に取り戻してもらう事にした。


「生憎と弓は持っていないから、弓に関しては少し待っていてくれ。お前の腕前を考えるとちゃちな弓を気が引けるからな」


「い、いえ。そこまで気にしなくても大丈夫ですよ。魔法は勿論、短剣があれば戦えますから。それに体術も少しは出来ますから!!! でも、ソウスケさんはこれからどう戦うんですか? あの短剣は今は私が持っていますし」


ミレアナはソウスケが身に付けていた武器は今自分が身に付けているため、ソウスケがモンスターや人とどう戦うのか分からなった。


「俺もお前と同じで戦う武器は色々と持っている。元々あの短剣はメインの武器じゃないからな。メインの武器は街を出てモンスターと戦う時にでも見せるよ。でも・・・・・・体術がメインて訳じゃないから丸腰ってのも何かおかしいな」


ソウスケは自分のアイテムボックスの中に良い武器は入っていないか記憶を探った。


(リザードマンやオーク達が使っていた武器でも構わないんだけど・・・・・・いかせん見た目がな。う~~~~ん・・・・・・あっ、そういえば宝箱に入っていたあれがあったな)


ワイバーンを倒した時に出て来た宝箱に入っていた双剣を思い出し、魔法袋から取り出すふりをしてソウスケはアイテムボックスの中から飛竜の双剣を取り出した。


「こいつは今まで使った事が無かったけど・・・・・・まぁ、実戦で慣れるのが一番か」


そう呟きながらソウスケは腰に鞘を取り付けた。


「ソウスケさん。それも私に渡してくれた短剣同様にただの双剣ではないですよね」


「相変わらず眼が良いな。まぁ、こいつがどういう双剣なのかは宿に帰ってから教えるよ。取りあえず今はどんな服が欲しいか考えておいてくれ。普段着はまた今度買うから今日は寝間着と冒険時用の服だけで勘弁してくれよ」


相変わらず奴隷に対する言葉遣いではないソウスケに、ミレアナはワタワタと慌てていた。

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