七十八話 純粋な故に

二人の雑談が続く中、セーレの内心はワイバーンの肉を食べることが出来る嬉しさと、初めて家に男を呼んだ事に対する緊張感が埋め尽くしていた。


(冒険者時代は基本的に売るという選択肢しか取れなかったから、ワイバーンの肉を食べれるのは正直嬉しいですね。ただ・・・・・・男性を自分の家に招き入れたのは初めてでしたね。ふ、普段から掃除はしているので散らかってはいないと思いますけど、ソウスケさんにどう思われているのかは少し心配ですね)


表情にこそ出ていないが、セーレに心臓はバクバクと大きく動いていた。

その心音を他人が聞けば、料理中に手元が狂ってしまわないかを心配する者もいるだろう。


(しかし、こうしてメイやソウスケさんと一緒にご飯を食べられるのは素直に嬉しいですね。メイは職場にいる数少ない心が純粋な後輩ですし、ソウスケさんはまだ初心なところがあるけれど、性格も良く実力も確かなルーキー。二人とは今後も仲良くしていきたいですね)


セーレは元冒険者という事もあり、一般人より多くの人種の人を見て来た。

中に羊の皮を被ったゴブリンの様なゴミ屑もいれば、素直で正義感があり過ぎるせいでその性格を利用され、上司の人間に良いように使われていた騎士もいた。

善人を装った冒険者ルーキーを殺して快楽を得ようとする殺人鬼。


中には勿論メイやソウスケの様に仲良くしていきたいと思う人物もいたが、それ程多くはいなかった。

なので二人に何か危害が及ぶような事は起きないで欲しかった。


(メイは本当に人が良いので今後人に騙される可能性は十分にあるでしょうね・・・・・・メイには厳しいかもしれないけど、護身の術は教えておいた方が良さそうですね。レベルに関しては追々考えましょう)


メイにどういった護身の術を教えるか、考えが纏まるとそれと同時に料理も出来上がった。


「・・・・・・うん、上手く作れた筈です。二人の所へ持っていきましょう」


セーレはおぼんに料理を乗せて、二人の味の感想を楽しみにしながらリビングへと向かった。



セーレとメイの二人とワイバーンの肉とその他のおかずを食べ終え、メイを家に送り届け帰路についているソウスケは、満腹感と幸福感によりかなりだらしない顔になっていた。


「いや~~~~~、マジで美味かったなワイバーンの肉。いや、ステーキか。下級のドラゴンのワイバーンでこの美味さだ。上位のドラゴンになるとどれぐらい旨いんだろうな・・・・・・まぁ、セーレさんの料理の腕前もあって、今回の美味さだったんだろうけどな」


セーレの料理はメインのワイバーンの肉のステーキ以外のおかずも、十分に美味しいとソウスケは感じた。

セーレが冒険者だったころのパーティーメンバーは、こんな美味いご飯を毎回食べられていたと思うと、とても幸せだったんだろうなと予想した。


この世界の食べ物は確かに美味い。日本人としてかなり舌が肥えているソウスケからしても、料理の腕がそこまでない人が作っても、ある程度の美味さは感じるだろう。

だが、食べる場所が野営地となると、格段にクオリティが下がる。


それは前回同じルーキー達を助けた時に、ソウスケは痛いほど実感した。

そしてその時ほど、自分のアイテムボックスのスキルが有難いものだと感じた事はなかった。


「冒険者に成り立ての者としては、これほど有難いスキルはないだろうな・・・・・・まぁ、その分厄介事が付きまわって来るんだろうけどさ」


今後自分に降りかかって来る面倒事を考えると、さっきまで満たされていた物が抜け落ちた。

変わりに悩みの種が沢山振って来たようにソウスケは思えた。


「・・・・・・俺的にはこの世界をゆっくりと楽しみたいんだけど、権力の事とかも考えておいた方が良さそうだな」


日本で暮らしていた時にはそこまで身近な物ではなかった権力だが、ソウスケはこの世界で生きていく上で有事の際にはある程度の権力は持っておいて損は無いと思い、今後の課題として頭の片隅に置いておいた。


「・・・・・・争い事になった時、なるべく先に手が出ないようにしとかないとな」


宿に戻って着替え、布団を被ったソウスケは小さく呟きながら眠りについた。


翌日、一度は九時ごろに起きたが眠気には勝てず、やはり二度寝してしまうソウスケだった。

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